【 身近に見られるアルコール依存症のいろいろな例、日本の患者数、患者の平均寿命
】
(改訂 07/09/06)
酒臭く、鼻の赤い無職の中年男で、酒が切れると手がふるえ、いつも意味不明のことをわめき散らしながらフラフラと放浪している。
一般人の「アル中」イメージは、こういったものであろうか。しかし、現実のアルコール依存症患者の姿は、千差万別。女性や老人はもちろん、10代の患者までいる。さらに、立派な社会人として尊敬を集めている。昼間は飲まない。仕事は休まない。暴力、暴言はない。飲んでいない時にはとても優しい。幻覚や手のふるえはない。たまにしか飲まない。などといったことは珍しいことではない。病気と認識されず、ゆっくりと、しかし長期的には確実に進行する。それがアルコール依存症の特徴だ。日本の同病患者は220万人。彼らの多くは私たちの身近に潜在している。一般によくみられる例をここに挙げておこう。
1. 肝臓病、糖尿病、心臓病などで、入退院を繰り返し、医師から節酒や断酒を勧められているが、守れない患者。
2. いつもは優しいが、酔うとしばしば、暴力的になる知人。
3. ほぼ毎日、台所で隠れ酒をしている主婦。
4. 飲酒して、朝帰り、外泊を繰り返している夫。
5. 休日には朝から飲酒し、その翌日にしばしば欠勤する会社員。
6. 酒が原因の対人関係のトラブルを繰り返している知人。
7. 机やロッカーに酒を隠してあり、勤務中にそれを飲んでいる教師や公務員。
8. 飲酒をしては、過食と嘔吐(おうと)をしている若い女性。
9. 睡眠薬や精神安定剤を持ち歩き、それを酒と一緒に飲んでいる知人。
10.誰とも会うことを拒否し、自室で静かに飲み続けている家族。
11.飲酒がらみの転倒事故、または交通事故を繰り返している知人。
12.家族や上司の前で、「断酒の誓い」を書いては、かくれて飲んでいる知人。
13.うつ病と診断されて、長期通院しているが、昼間から酒臭い知人。
これらのケースは、この情報だけで、アルコール依存症と即断はできないが、その可能性は濃厚だ。アルコール依存症は治療により回復可能だが、大部分の患者は、その診断や、専門医療を受けることなく、早死にしている。同病患者の平均寿命は52歳である。
[アルコール症患者の平均寿命に関する文献]
徳永雅子, 明石道子, 紅露藍子, 齋藤學: アルコール依存症者死亡例の検討.
アルコール医療研究, 6:274-283, 1989
1983年4月から1988年3月までの5年間に世田谷保健所がかかわったアルコール症の事例、451例のうち、1988年8月末までに死亡が確認された39例についての調査では、平均死亡年齢は52歳7ヵ月であった。
野田哲郎他:一衛星都市(大阪高槻市)におけるアルコール症者の実態と長期予後、アルコール研究と薬物依存、23(1):
26-52, 1988
平均死亡年齢が50歳5ヵ月。
田中孝雄:慢性アルコール中毒の長期予後研究。慶應医学、57(6):
733-748, 1980
死亡実測値は51歳2ヵ月、期待値が52歳前後。
[アルコール依存症82万人、成人男性の2% 厚労省推計]
厚生労働省の研究班(班長=樋口進・国立病院機構久里浜アルコール症センター副院長)が世界保健機関(WHO)の基準に基づき行った、初の全国調査では、日本におけるアルコール依存症の人は82万人と推計された。
依存症の割合は男性1.9%、女性0.1%、全体では0.9%。世代別では70歳代が2.9%で最も比率が高く、60歳代(0.9%)、50歳代(0.7%)と続く。日本全体では推計82万人。
(朝日新聞、04/06/18)
関連文献
1) 樋口 進: アルコール依存症治療の現状と将来の展望、精神神経学雑誌, 109.
(6). 534-535, 2007
(第102回日本精神神経学会総会、2006年5月11-13日、の中で行なわれたシンポジウムの報告)
2)尾崎来厚, 松下幸生, 白坂知信ほか: わが国の成人飲酒行動およびアルコール症に関する全国調査. アルコール研究と薬物依存, 40(5); 455-470, 2005
(註:記事本文中の「日本の同病患者、220万人」とは診断基準が異なる。軽症乱用者をどの程度まで含めるかで統計値が異なる)
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文責:竹村道夫(初版: 99/1)