【 多重嗜癖の若年女性 】    赤城高原ホスピタル

(改訂:02/07/17)


 最近、赤城高原ホスピタルでは、アルコール症以外に、摂食障害、薬物乱用、恋愛・セックス依存など、多数の嗜癖行動をもつ 20,30代の若年女性の入院が増えてきました。これらの女性の多くは、常習的自傷行為(ほとんどが左手上腕、手首の切傷)や頻回の自殺未遂(ほとんどが大量服薬)があり、そのために、ホスピタル入院前にすでに精神病院入院を繰返しています。それらの病院では、「アルコール・薬物依存症」「摂食障害」に加えて「人格障害」「ヒステリー」「境界性人格障害」「自己愛型人格障害」「非定型精神病」などと診断されています。極めて情緒不安定、衝動的なので、大量の向精神薬を処方されていたり、長期間保護室に入れられていたりする一方で、社会的に有能な魅力的な美女もいて、その場合には医療関係者との不適切でもつれた愛憎関係の過去を持っていたりします。

 さらに病歴を詳しく確かめると、彼女たちのほとんどが機能不全家庭の中で困難な幼児期を過ごしており、身体的虐待や性虐待を受けていることも稀ではありません。治療に当たっては、彼女たちを「幼児期のトラウマ体験を持つ外傷性精神障害者」とみる視点が重要です。実際、被虐待体験との関係が深いとされる解離性症状やPTSDを合併していることも少なくありません。また幼児期だけでなく学童期にいじめの被害にあっていたり、思春期から成人期にかけて性虐待、セクハラやレイプなどの被害にあっていたりする方もいます。

 私たちは治療の際に、安全な治療場所を確保するということに全力を挙げています。それは、患者さん方にとって安心感が持てる場所ということだけではなくて、治療スタッフにとっても安全な職場を作り維持するということです。そのためには、治療スタッフの研修、チーム治療、個人療法と集団療法の併用などが役立つと思います。また治療の中で治療関係を見直して修正し、時には打ち壊して建て直す作業をしなければなりません。このようなことは「境界型人格障害」の治療者にとっては常識でしょうが、ここで問題としている女性たちは「人格障害」に加えて嗜癖問題を持っているという点に注意が必要です。アルコールや薬物の乱用が続いている患者に深層心理を扱うような精神療法はなじみません。嗜癖治療を優先するのが原則です。わざわざこんなことを言うのは、個人精神療法を主体とした治療が、嗜癖患者との歪んだ身動きの取れない治療関係の中で行き詰まり、治療関係によって傷ついた患者(と治療スタッフ)を見ることが多いからです。

 私たちは上記のような一般的な人格障害モデルの治療に加えて、教育的治療、家族療法、認知行動療法、自助グループの活用といった嗜癖治療モデルを併用しています。つまり本人と家族に十分な情報を与え、家族の集団療法を行い、彼女たちの回復レベルに合わせて助言を与え、自助グループを育成し参加を勧めるといったことです。向精神薬に関しては、処方薬依存に充分注意して必要最低限しか使いません。

 嗜癖治療には自助グループの利用が欠かせませんが、群馬県には、アルコール依存症のAA、断酒会のほか、薬物乱用者のNA、摂食障害者のNABA、OA、嗜癖問題全般のAKK、機能不全家庭出身者のためのAC、家族のための自助グループなど多数があります。赤城高原ホスピタル院内でも自助グループ活動は活発で、女性被虐待者のミーティング、女性アルコール症患者のミーティングなどもあります。また上記のグループからのメッセージ(院外の回復者が司会をする院内ミーティング)もあります。入院患者はこれらの院内ミーティングに出るだけではなく、入院中から院外のセミナーやミーティングなどの自助グループ活動に参加します。

 多重嗜癖の若年女性の場合、病気の根が深いので、治療は年単位の長期にわたり、行きつ戻りつの困難なものになりますが、治療予後は必ずしも悪くないように思われます。


[多重嗜癖の若年女性、10年後の消息]

 18-3年前に私が治療に関わっていた、多重嗜癖の若年女性、2000年―2001年の消息です。治療していた頃は、いずれも、10代後半から20代前半、それぞれに魅力的な方々でした(今でも?)。プライバシーに配慮して、個別事情は省略してあります。


[Aさん] 摂食障害+アルコール依存症、以前(21-22歳ごろ)のような、苦痛はなくなりました。過食嘔吐はほぼ消失、未婚。男嫌い? 現在、自助グループにはつながっていません。1年に1、2回、飲酒スリップをします。スリップをすると、数日間飲み続けになるようです。現在30歳。

[Bさん] 摂食障害+アルコール依存症、10年前、ストーカーのように院長を追いまわしていた方。しつこく飲酒と過食のスリップを繰り返していましたが、他院に長期入院。退院後、最近では自助グループにつながり安定。結婚して子供もいるとのことです。現在30歳前後。

[Cさん] アルコール症+いろいろ依存(?)+自殺未遂、珍しく摂食障害なし。20歳前に発病。早く自助グループにつながり、10年以上、1度もスリップなし。結婚しました。仕事も順調? 現在30代前半。

[Dさん] 摂食障害+アルコール・薬物依存症+自殺未遂+自傷行為、夜の繁華街を泥酔状態で徘徊し、トラックの下にもぐりこんだりしていた方。現在は安定。過食なし、飲酒スリップなし。同棲を解消。自助グループにつながっています。

[Eさん] 摂食障害+薬物依存症+いろいろ依存(?)、治療スタートした頃、10代で自殺未遂と自傷行為を繰り返していた方。ソーバー(薬物使用なし)10年以上? 結婚して、一児の母。自助グループにつながっています。

[Fさん] 摂食障害+アルコール依存症+自傷行為+ひきこもり+家庭内暴力、家族介入で底をついて、専門病院へ入院する予定日の前夜、飲みすぎて亡くなられました。嘔吐物が喉に詰まったときいています。10年前の死亡時、21歳でした。ご冥福をお祈り申し上げます。

[Gさん] アルコール依存症+摂食障害+自殺未遂、お酒も過食も回復。年上(父親世代)男性との関係を清算、結婚して3児の母。自助グループ、1年前はつながっていたはずだけど現在は?

[Hさん] 摂食障害+アルコール・薬物依存症+自殺未遂+自傷行為、入院中はトイレにこもって過食してパニックになっていた方。摂食障害以外はほぼ回復。たまに過食嘔吐? 結婚離婚、再婚。自助グループにつながっています。お元気そう。そろそろ30歳のはず。

[ I さん] 摂食障害+アルコール・薬物依存症+自殺未遂+自傷行為、10年前、やせボケ状態で、ミーティング場で尿失禁。お母様が献身的に治療に参加。回復。自助グループにつながっています。お元気とのことです(2001年2月メール)。

[Jさん] 摂食障害+アルコール・薬物依存症、下剤、処方薬の乱用がひどく、専門病院への入退院を繰り返していたが、最近5年以上は、入院なし。過食嘔吐はなし。拒食ぎみ。物質乱用なし。安定状態。長期カウンセリング中。自助グループには行っていない。

[Kさん] 摂食障害+アルコール乱用+自殺未遂+自傷行為、ご両親が献身的に治療に協力され、いまはご本人もかなり安定されているはず。現在の症状、治療状況、自助グループとの関係は不明。

[Lさん] 摂食障害+薬物乱用+自殺未遂+自傷行為、治療中に知り合った仲間と結婚。過食嘔吐なし。たまに軽度不眠程度。今は子育てに忙しくて、自助グループには出られません。

[Mさん] 摂食障害+薬物乱用+自殺未遂+自傷行為、23歳から28歳まで、ホスピタルに入退院を繰り返していた方。最後に退院されて半年後(どこにも通院せず)、29歳で亡くなりました。依存性薬物に関連した事故死のようです。

[Nさん] 摂食障害+アルコール処方薬乱用+自傷行為、元銀座のマダム。思い出したように電話をくださる方。いろいろな資格をとって、元気でやっているらしい。

[Oさん] 摂食障害+薬物乱用+自殺未遂+自傷行為、ホスピタル入院時の検査では、ひどい自傷行為のために、ヘモグロビンが正常値の半分になっていました。1ヵ月の入院の後転院(外来通院)、自傷行為も処方薬乱用もかなり軽快していましたが、退院1年後に訃報を聞きました。自殺ではなく、原因不明の突然死のようです。長年の出血、拒食による体力低下に、疲労や薬物乱用などの相乗効果かもしれません。30歳前でした。

[Pさん] 摂食障害 + アルコール薬物(処方薬)乱用 + 自殺未遂 + 自傷行為 + 境界性人格障害、入院1ヵ月(当時24歳)、通院2年の治療終了後6年ぶりにメールをいただきました。「HP見ました。食事と体重へのこだわりもなく、死にたい気持にも、漠然とした不安にもお別れし、現在も自助グループの活動にたずさわりながら、OL兼主婦の人生を楽しんで、のんびりと生活しております」



 治療していた頃の、泥沼を這いまわるような症状から考えると、回復率は悪くないと思います。私の知らないところで元気でいる方もいるはずです。逆に、もう亡くなっている方もいるかもしれません。自助グループにつながっている方が多いのは、多分、自助グループにつながっていれば、そのうちに回復して、いつかどこかで直接お目にかかったり、ホスピタルのスタッフや関係者から消息を聞いたり、回復者などから情報を聞くチャンスがあるからです。HPを見て、メールをくれた方もいました。2002年頃からは、赤城高原ホスピタルでは、クロスアディクションの患者さんも、いくらでもいる普通の患者さんになってきました。それだけ数が増えてきました。

 昔、私の治療を受けた方、赤城高原ホスピタルに入院された方、あるいはご家族の方、良かったら、メールでお便りください。


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AKH 文責:竹村道夫(初版:99/07) 


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