【摂食障害治療への親の協力 】
(改訂 11/11/11)
[ 注意 ] 以下の記事は、NABA (摂食障害者の自助グループ)のテレフォンメッセージ用に作った原稿に加筆訂正したものです。
[ 赤城高原ホスピタルと京橋メンタルクリニック ]
最初に、私が治療の場としている赤城高原ホスピタルと京橋メンタルクリニックについてご説明します。赤城高原ホスピタルは、日本の真ん中、群馬県渋川市にあるアルコール依存症専門病院です。107床のベッドがあり、どちらかと言うと外来治療より入院治療に重点を置いた治療構造になっています。アルコール専門病院という施設の特殊性のために、入院している摂食障害の方々は、原則としてご本人がアルコールまたは薬物乱用合併者であるか、または酒害家庭出身者です。つまり親のアルコール問題があり、その影響を受けて育った方、いわゆるACOAの方、もしくは薬物乱用者のご家族です。ほとんどが過食症で、拒食症の方は少数です。平均的には、外来治療ベースの精神科クリニックよりは、重症の方々が入院しています。ただし極端に体重が少ない方の入院は受け入れていません。
一方、京橋メンタルクリニックは、東京駅から徒歩5分の場所にある精神科クリニック(TEL 03-5203-1930,1931)です。金曜日に摂食障害を含む嗜癖関連問題の外来治療をしています。京橋メンタルクリニックの住所は、(〒104-0031) 中央区京橋1−2−4、八重洲ノリオビルです。
こちらは、初めて受診された摂食障害の方々や、ご家族のご相談を受けて診断と治療の方向づけなどのアドバイスをしています。また、赤城高原ホスピタルを退院された方のフォローもしています。これらの情報は、赤城高原ホスピタルのホームページで紹介していますので、関心のある方はごらんください。
なお、長年、渋谷区で診療していた外苑神経科は、2009年12月に閉院となり、上記「京橋メンタルクリニック」で診療を引き継ぎました。外苑神経科はもう存在しません。
また、2011年11月現在、京橋メンタルクリニックの金曜日の嗜癖問題外来は、「窃盗癖」専門外来に近い状態になっており、この問題を扱う医療機関が日本にほとんどないために、全国から受診や相談が増えてきています。このため、その他の診療が圧迫を受けるようになってきて、単なる(窃盗癖合併のない)摂食障害の場合、初診時以降の外来通院はかなり困難な状況です。初診時の診療は、セカンド・オピニオンとしての診断と治療方針のご説明、入院やほかの診療機関、有料カウンセリングルーム、自助グループなどのご紹介などが中心になります。
[ 摂食障害重症度と家族病理 ]
摂食障害の重症度は、軽度から極めて重症の例まで、患者さんによって著しい差があります。摂食障害は、一方ではファッションやダイエットの習慣と関係がありますが、重症例では、家族の病理も考える必要があります。私たちが主として治療対象としている中等度から重症の摂食障害の方々では、家族病理が比較的明瞭であることが多いようです。たとえば、酒害家庭で虐待を受けてきた方とか、摂食障害の本人が受診せず、家族だけが相談に来ているケースといったような例もあります。ただ、それほど家族の問題がはっきりしていない場合でも、家族の治療への参加は、治療資源として重要です。私たちは、多数例の治療経験から、20歳前後の女性摂食障害の治療の際に、ご両親が家族会に参加されることは予後良好のサインである、という印象を持っています。
[ 3つの質問 ]
さて、摂食障害治療に親が関わることについて、NABA本部からの3つのご質問をいただいているので、それにお答えしたいと思います。1番目が、治療に全く非協力的な親への対処の問題、2番目が、親に関わってほしくないという患者さんへの対処について、3番目が親へのアドバイスです。順次お答えします。
[ 非協力的な親 ]
1番目のご質問です。摂食障害ケースの中には、治療に全く非協力的な親がいる場合があります。これには、いろんな要因がありうると思います。たとえば、家族が、摂食障害問題を本人の意志の問題や、食べ物を粗末にするなど、道徳的な問題と見なし、病気という認識がない場合です。また、このことに関して親にできることはない、と決め込んでいることがあります。あるいは、家族が摂食障害問題に巻き込まれ、誤った対処によって疲れきってしまっている場合があります。それから、親自身に精神的な病気や、性格的な問題がある場合があります。さらに、子供が摂食障害になったのは、親に原因がある、として親が責められるのではないか、と家族が恐れている場合。あるいは、かつて治療者から家族がそのように言われて、傷ついている場合があります。あるいはまた、実際に摂食障害ご本人が親から虐待を受けて育ち、現在も迫害を受けている場合もあります。
ですから治療者は、個々のケースについて、このような要因のうち何が関係しているかを見極め、それによって対処を考えていく必要があります。多くの場合、家族全体の構造を分析し、治療に協力できるキーパーソンを定め、その人の協力によって家族に介入することができます。家族を責めるのでなく、家族自身を援助対象、治療対象として、家族を治療ネットワークの中に取り込むことから解決が導かれます。一見家族の協力をとりつけることが困難に思われるような場合でも、摂食障害本人が入院することから事態が展開してくることもあります。たとえば、入院手続きにやってきた家族が、家族会に出席し、そこで同じ立場の家族の話を聞いて、「なるほど、このように家族が治療に参加するのが当たり前なんだ」と納得することが少なくありません。
家族が治療の場に来ることを強く拒否し、本人に医療費の工面が難しい場合には、治療スタッフから親に連絡を取り、治療代だけでも出してほしい、と交渉する場合もあります。それすら拒否される場合には、生活保護を申請することになります。
[ 親には治療に関わってほしくない、と言う患者さん ]
2番目のご質問です。摂食障害ご本人が治療に際して、親には全く治療にかかわってほしくないということもあります。
これにも、いろいろな場合があります。1番目のご質問と重なる場合もあります。これまでの治療経験から、最も多いのは、親と本人との間で、ある種のすれ違いが生じていて、ご本人が親に反発をしている場合だと思います。実際には、親には治療に協力する気があるのに、親のかつての誤った対応により、深く傷ついている摂食障害の患者さんご本人が、親に恩着せがましく言われるのが嫌だ、これ以上親に迷惑をかけたくない、どうせ協力を断られるに決まっている、断られたら自分がもっと傷つく、と考えているような場合です。あるいはまた、ご本人が病気であることを家族に全く隠しているので、いろいろな問題を伝えることにより、さらに深く親の期待を裏切ることになる、と考えている事があります。親に隠したい事情の中には、自傷行為、万引の癖や妊娠中絶の事実、異性問題、同性愛であること、美容整形手術、違法な薬物使用歴、売春歴などがありえます。
以上、ご本人が親に関わってほしくない、と言う場合でも、それをただ表面的に額面どおり受け取るのではなく、どうしてそうなのか真意を探ることが必要です。ご本人が被虐待者、被迫害者であるような例外的な場合を除いて、何らかの形で家族の協力を取りつけることが可能であり、また治療上重要です。ただし、ご家族に連絡するなど、決定については、原則としてご本人の了解の下に実行すべきでしょう。
[ 親として望ましい対処法 ]
3番目のご質問です。摂食障害者を持つ親御さんに、望ましい対処法を提案してほしい、ということです。6つの提案をしたいと思います。
(1)、ご自分の子供さんについての思い込み、摂食障害についての思い込みを捨て、白紙になりましょう。
(2)、親自身も信頼の置ける相談者を持ちましょう。相談者としては、摂食障害治療、とくに家族療法の経験豊富な専門家が良いでしょう。
(3)、摂食障害者である、子供さんへの対処を考えるより、ご自身の回復に目を向けましょう。
(4)、摂食障害ご本人の回復を気長に見守りましょう。
(5)、同じ立場のご家族と横のつながりを持ちましょう。摂食障害に関しては、「やどかり」や「あんだんて」といった、ご家族の自助グループがあります。それから、専門治療施設や専門相談室には、多くの同じ立場のご家族がおられます。
(6)、なるべく多くの摂食障害回復者に会いましょう。専門治療施設やセミナーなどでそういった方に会えます。また、NABAのテレフォン・メッセージで回復者や回復途上の方のお声を聞くことができます。(TEL: 0990-511-211; 1回の利用に付き、通話料+定額情報量300円)
最後に、摂食障害はきちんとした治療をしさえすれば予後良好な病気です。ご家族の治療への協力があれば、回復率はさらに高くなります。また、治療に参加されたご家族自身が、治療過程で家族や友人との絆を確かめ、人生を豊かにするような多くのものをそこから学ぶことができる、と私たちは信じています。
皆様方のご健闘とご回復をお祈り申し上げます。
[ 注意 ]
● 上記の記事は、NABA (摂食障害者の自助グループ)のテレフォンメッセージ 「回復のために親の協力は必要か」 Q and A 形式第66弾(06/01/31-06/02/28)としてNTTのダイヤルQ2サービスで流した録音テープの原稿を元に加筆、改訂を繰りかえしてきたものです。
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● または、昼間の時間帯に、当院PSW(精神科ソーシャルワーカー)にお電話してください
⇒ TEL:0279-56-8148
文責:竹村道夫(2000/09)