【 自傷行為関連英語学 】
(改訂 09/08/08)
[はじめに] 最近、「リスカ」とか、「アムカ」とか、おかしな用語が若者たち、患者たちの間で使われるようになり、私たち臨床家の方がびっくりして、「えっ、いま何て言ったの?」、「どういう意味」と聞き返す次第です。ちなみに、「リスカ」は「wrist
cut、リストカット」の略語、「アムカ」は「arm
cut、アームカット」の略語だそうです。
語源の英語は正しいだろうか、英語圏ではどういう表現を使うんだろう、と疑問に思ったのが、このページを作るきっかけです。もとより浅学菲才の身、海外留学の経験もなければ、英語に詳しいわけでもありません。知人の助けを得て議論のたたき台だけを私が作って、あとは、ビジターの知恵を借りて改訂していこうというのが魂胆です。従って、ここに書かれていることは、原則的には、私、院長の個人的意見ですから、あまり信用し過ぎないでください。かなり好き勝手に脱線します。間違いを見つけられた方、疑問や意見のある方、どうぞメールをください。私が、なるほど、と思ったメールは、改訂に組み入れるか、あるいは、転載させていただきます。
★ いわゆる「手首切り」を意味する英語としては、“wrist
cut”という表現よりは、むしろ“wrist slash”を使うように思います。“wrist
cut”というと手首をざっくり切り落とすイメージが浮かぶ人もいるためです。多くの人が“cut”の代わりに“slash”を使うようです。“slash”は、切りつける、あるいはめった切りにするというイメージです。
★ ちなみに、“visible wrist cutter”という商品を見つけました。これは、小型ギロチンのような器具で、手首を切り落とす(ように見せる)奇術の用具($59.99)でした。
http://www.magicandnoveltyoutlet.com/magic/stage/disecto-arm-chopper/prod_1021.html(09/08/08確認)
★ “wrist cut”があまり使われないとは言っても、英語として間違いという訳ではないし、英文文献などでもこの表現を散見します。
“I cut my arms with a knife.”とか、“I
cut myself with a scissors until I bleed.”
というような表現も不自然ではありません。
★ 細長い切り傷を作る、というイメージで、"slit
the wrist"という表現も使います。Substance
D というロックアーティストのアルバム、Black(1991年)に”Slit
the wrist”という曲があります。
★ 日本では、手首切りをする人を“wrist cutter”または”wrist-cutter”と言いますが、英語圏では “wrist
slasher”と“wrist-slasher”も、よく使われます。
★ それからリストカットをする人を呼ぶときは「リストカッター」だとlabelingになりやすいので、現場では“person
with self-destructive behavior”と言うことが多いという意見があります。
★ 英語表現としては、“wrist cutter”または“wrist-cutter”よりも、
“self cutter”または“self-cutter”がよく使われているように思います。
★ “Wrist cutter”より“self cutter”が好まれるのは、手首だけでなく、前腕、肘、太ももも傷つける人が多いから、また、“self
cutter”は短い用語だし、self が付くと、“cutter”の“-er”が道具じゃなくて人だということが分かるし、他人を傷つける危険な加害者でもないと分かるからかもしれません。
★ “Slash the wrist”という表現と同様に、 “wrist
slasher”と“wrist-slasher”も、よく使われます。
★ 日本では、手首切りをする人たちだけでなく、前腕や肘の自傷行為なども含めて、あるいはもっと広げて、一般に自傷行為をする人たちの総称として「リストカッター」、およびその省略形「リスカ」を使う傾向があります。語源を忘れた誤用です。
★ 「自傷行為」に相当する英語表現としては、
“self-mutilation; self-injury; self-laceration;
self-harm; self-abuse; self-inflicted violence;
self-inflicted cut; self-destructive behavior;
auto-aggression” などがあります。
★ “Parasuicide”という言葉を使う人達は自傷行為は”擬似自殺行為”であるという意味で使っているようです。(”para”は”擬似”という意味の接頭辞です。)だから「死ぬ為に自傷しているのではなく、死ぬほどの痛みを和らげる為に自傷している」と自称するcutter達には気にいらない言い方のようです。
★ “delicate self-cutting”は「ちょっと引っかいてみただけ」という感じのニュアンスで、一部のプロに使われていますが、これもcutter達には好かれていない表現のようです。
★ 「自傷行為者」に相当する英語表現としては、“self-mutilator;
self-cutter; self-abuser; self-slasher; self-injuror;
cutter”などがあります。
★ “Self-injury”と“self-injuror” はよくSIと略され、“self-mutilation”と“self-mutilator”は、SMと略されます。
★ 若者に見られる自己破壊的行動の代表として、「リスカとOD」はよく同時に出てきます。「OD
あるいは O.D.」というのは、overdose (オーバードーズ)つまり「薬の適量超過」のことです。日本では、処方薬、市販薬の過量服用、大量服用の意味で使われています。
★ アメリカでは、2000年−2001年に、ガリガリにやせた女性のファッションを競うような、プロアノレキシア(激やせ大好き)サイトが話題になりました。(最終的には、その大部分がネット上から締め出される方向にあります。 “pro-ana
site”ともいいます)
★ 日本には、これと似たような現象の、いわば、“プロリスカ”のHPがあります。
(1)リスカ同盟(03/02/11閉鎖済み確認) http://page.freett.com/SuminamiYume/risuka/risuka.html
(2)*** http://*******.html (03/02/11存在確認。伏字にしました。お勧めできません。研究者やマスメディアの方などで、URLをお知りになりたい方は、氏名、所属を明記の上、メールでお問い合わせください。)
★ 反対の立場のHPもあります。
リスカ&OD禁止同盟(03/02/12確認) http://nagasaki.cool.ne.jp/kinsi/
★ アメリカにも、似たような“プロリスカ”のHPがあります。
ボディー・ピアッシング(身体にピアスすること)やタトゥー(刺青)などのBody
Artと一緒にして表現の一つやサブカルチャーとしてリスカを賞賛(?)してるサイトもあるようです。
[参照したサイトの一部]
Self-Injury: A Struggle Gabrielleという16歳の現役の女性のサイトです。女優や俳優など有名な自傷者の事が載っています。
[参照した本の一部]
“Cutting: Understanding and Overcoming Self-Mutilation”by Steven Levenkron(1999) 著者は、個人診療をしている心理療法家です。
“A Bright Red Scream: Self-Mutilation and
the Language of Pain” by Marilee Strong & Armando R. Favazza(2000) 上記の Steven Levenkronの本よりももっと共感的に書かれています。Strongはサンフランシスコ近郊に住む、ベトナム帰還兵や児童虐待のトラウマ取材で賞を取っているジャーナリストです。
[おわりに] このページは、アメリカ、サンフランシスコ在住の市村まほさんの協力で出来上がりました。刃物と血液恐怖症なので、刃物ネタは苦手だというのに、無理を言っておつきあいしていただきました。感謝。
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● または、昼間の時間帯に、当院PSW(精神科ソーシャルワーカー)にお電話してください
⇒ TEL:0279-56-8148
文責:竹村道夫;協力:市村まほ(初版: 03/02/11)