【摂食障害、入院治療とその効果 】   赤城高原ホスピタル

(改訂 08/02/06)


[ 注意 ] 以下の記事は、NABA (摂食障害者の自助グループ)のテレフォンメッセージ用に作った原稿に加筆訂正したものです。


[NABAからの質問]
 拒食や嘔吐で体重が激減したり、過食でうつがひどく自傷行為が止まらなかったりする仲間の多くが、周囲から入院治療を勧められても、怖くて入院できないと聞きます。入院すれば本当に治してもらえるのか? 体重を増やされるだけなんじゃないか? こんな声にお答えください。入院する病院を選ぶ目安は何でしょうか? 入院の際に気をつけるべきことは、どういうことか教えてください。


[赤城高原ホスピタルにおける摂食障害治療]
 こんにちは。赤城高原ホスピタルは、日本のほぼ中央、群馬県渋川市にある、ベッド数107床のアルコール症の専門病院です。この種の専門病院では、入院患者は圧倒的に男性優位ということが多いのですが、赤城高原ホスピタルでは、若い女性のしかも摂食障害合併患者がかなりいるというのが特徴的です。なぜアルコール症専門病院に摂食障害患者が入院しているかと言うと、若い女性のアルコール症患者では、摂食障害を合併していることが多いこと、酒害家庭で育った女の子が思春期になると摂食障害を発症しやすいこと、摂食障害患者、とくにアルコール問題がらみの患者さんの入院治療を引き受ける病院が全国的に極めて少ないこと、などの事情によります。


[入院中の摂食障害患者の特徴]
 摂食障害には、大きく分けて、拒食症と過食症があり、それぞれに軽症例から重症例までありますが、赤城高原ホスピタルでは、激やせ患者の入院は受けていません。治療対象になるのは、主として過食症患者で、体重の点では、中等度やせから肥満まで、行動面、精神面では中等度から重症の方です。具体的には、幼児期に虐待を受けた方、自傷行為や自殺行為を繰り返している方、解離症状を伴う方が多い、といった特徴があります。比較的重症の方が多いとはいっても、軽症の方が入院できないという訳ではありません。これらの情報は、赤城高原ホスピタルのホームページで紹介していますので、関心のある方はネット情報をごらんください。


[BMIの計算方法]
 さて、体重の判断基準に関しては、国際的な尺度として、BMI(Body Mass Index)というものが使われています。「体重(kg)÷身長(m)の2乗」という計算式で表されます。ここで、体重は(kg)、身長は(m)の数値を用います。

例えば150cmで50kgだと、50÷1.5÷1.5=22.2となり、この体重は、最も健康とされるBMI、22に近い数字になります。実際には、多少の幅をみて、18.5〜25未満が正常範囲とされています。


[ファッション業界のやせ過ぎモデルへの対応]
 最近、海外で、ファッションモデルの摂食障害による死亡例が相継ぎ、被害者家族からの進言や患者団体からの批判、専門家のアドバイスなどがあり、マスメディアで取り上げられました。現在、ファッション業界は、「やせすぎモデルは不健康」であるとして、BMIが18以下のモデルを使用しないようにしようとする自己規制の方向に動いています。この放送をお聞きの患者さん方も、ご自分のBMIを計算してみてください。


[激やせ摂食障害患者の抱える危険性と対応について]
 激やせ摂食障害患者では、しばしばBMIは13以下になります。これは不健康を通り越し死に直結します。感染症、低血糖性昏睡、不整脈、麻痺性イレウス、腎障害などを合併し、死亡する危険があるので、精神的治療よりも身体的治療を優先すべきでしょう。具体的には、栄養補給が中心になり、最終的には鎖骨下静脈に直接高カロリーの輸液を入れる中心静脈栄養が必要になることもあります。たまに激やせの方で、外来クリニックや相談室に通っていて、転倒して怪我をしたり感染症を合併したりして緊急入院をするケースがありますが、治療担当者は、外来治療の限界を認識して、危険性をはっきりと患者や家族に告げて、必要なら、強力に入院治療を説得すべきだと思います。


[入院治療の適応]
 激やせや身体疾患合併以外の方で、摂食障害入院治療の必要性についていうと、何らかの理由で、外来治療、専門相談室や自助グループといったところへ自分の足で通えない人、あるいは治療上の理由で家から離れた方がいい方、そしてそのほかの理由で、外来治療とは違う環境下で、集中的な治療体験をしてみようという方は、入院も考えてみるといいでしょう。たとえば、赤城高原ホスピタルでは、週に2回の万引き・盗癖ミーティングがありますが、そのような治療環境は、日本中で、ここしかないでしょう。

→追加情報:赤城高原ホスピタルでは、2009年2月現在、1週間に7回、(月、火、木、金、日曜日の午前8:45-9:30と水曜日と土曜日の午前 10:00−11:30)万引・盗癖本人向けミーティングを行なっています。→もっと詳しい情報は、こちら(病院内・万引盗癖ミーティング)


[自由な雰囲気の治療環境]
 赤城高原ホスピタルでは、摂食障害を合併している患者さん方の入院期間の平均は、40−50日です。入院形式は任意入院ですから、入院直後でも、患者さんが退院したいと言えば原則として退院できます。通常、入院後1週間は外出禁止ですが、大部分の患者さんは、病院敷地内にある温泉の足湯に入るための30分間の外出だけは許可されます。つまり強制的な治療とは対極にあるとも言えるほど、自由な雰囲気の治療環境です。


[入院を拒否する患者への対応]
 摂食障害の患者さんの多くは、新しい対人関係が苦手で、入院を怖がります。ご家族はどうすればよいのでしょう?

 赤城高原ホスピタルなど、嗜癖問題や摂食障害の専門病院では、ご本人の治療と同等に、家族相談にも力を入れているので、患者さんご本人が治療を拒否している場合でも、ご家族だけのご相談を受け付けています。家族向けの教育、治療プログラムが充実しており、実際に多くのご家族が通院しています。ですから、ご本人入院前に、ご家族が治療内容について、詳しく知ることができます。

→ご希望のご家族は、病院付属の研修棟(原則個室)にお泊りになって家族会に参加することが可能です。月-木の3泊4日が標準ですがより短期、長期の宿泊も可能です。


[入院先の選択基準]
 では、このような家族向けのプログラムがないところでは、どのように入院する病院を選べば良いのでしょうか?

 私が思うには、摂食障害治療は、精神科の中でも特殊分野ですから、精神科医なら誰でも摂食障害の治療ができるというわけではありません。この点で、摂食障害の治療は、神経症やうつ病や統合失調症の治療とは違っています。だから、摂食障害の医療を受けている患者さんご本人やご家族は、治療者や治療施設が適切かどうかということに他の精神疾患以上に気を使うべきだと思います。


[摂食障害施設に必要な治療構造]
 赤城高原ホスピタルにおける摂食障害治療の特徴は、十分な情報提供、家族療法と集団療法そして自助グループとの協力関係といったところです。なるべく個人療法だけでなく、集団療法を併用し、院外治療ネットワークとのつながりを重視しています。赤城方式が摂食障害治療の定番である、と言うつもりはありませんが、多くの摂食障害の患者さん方が、極めて不十分な治療環境で長期入院していることがあるというのは事実のようです。例えば、薬物療法中心で、申し訳け程度の個人精神療法しかなく、他の摂食障害患者や回復者との治療的な接触がない、本人と家族に対する教育的なプログラムがない、集団療法や家族療法もない、閉鎖的治療空間で摂食障害治療ネットワークの他施設との交流もない、というような入院施設は、摂食障害の治療には不向きだと私は思います。


[一般病院では、大量薬物投与が多い?]
 一般精神病院で治療を受けている摂食障害の方は、過量の処方薬を服用していることが多いように思います。一部の方は、もともとの病気である摂食障害に加えて、はっきりとした処方薬依存になっています。ほかの医療機関で治療しておられて、赤城高原ホスピタルに転院される摂食障害の方の8割位の方が、入院中に処方薬を少なくすることができます。


[入院によって何を得られるか]
 では、摂食障害の患者さんは、入院治療によって何を得られるのでしょうか?

 摂食障害という診断名を聞くと、一般の方々は、患者さん方の食習慣や体型にのみ注意を向けがちですが、入院施設でやや重症の摂食障害患者の日常生活を観察しつつ治療に当たっていると、表面的な症状の背景となっている歪んだ対人関係、さらにその奥にある傷ついた心に問題の本質があることに治療者は気付きます。だから、摂食障害からの回復で、本当に必要なものは、実は、○○○○療法というような名前のある特殊療法ではなく、正確な情報、安全な対人関係と、健康な日常習慣、そして時間かもしれません。


[期待しすぎるのも問題?]
 患者さんによっては、入院という保護的環境の中で、3食と睡眠時間が決まった規則正しい生活をし、新しい人間関係を作りあげる過程で起こる問題を専門家と相談するという毎日だけで、どんどん回復してゆきます。しかしそうかといって、入院治療に多くを期待しすぎるのも間違いです。一般には、摂食障害の治療には、数年間を必要としますから、数週間の入院では、この疾患に関する基礎的な情報を得て、回復の手がかりを掴む、という程度に考えたらよいでしょう。


上記の記事は、NABA (摂食障害者の自助グループ)のテレフォンメッセージ「摂食障害の入院治療とその効果」としてNTTのダイヤルQ2サービスで流した録音テープの原稿を元に加筆、改訂を繰りかえしてきたものです。


ご連絡はこちらへどうぞ ⇒ address
または、昼間の時間帯に、当院PSW(精神科ソーシャルワーカー)にお電話してください ⇒ TEL:0279-56-8148

AKH 文責:竹村道夫(初版: 07/01/17)


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