【 覚せい剤の乱用 】      赤城高原ホスピタル   (改訂 00/09/14)


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 1999年3月10日づけ読者のページ、コラム「視点:オピニオン21」に、赤城高原ホスピタル院長の「覚醒剤の乱用」に関する論説が掲載されました。
 サブタイトルが「医療、教育から対処必要」。以下がその本文です。


 昨年1月、警察庁は第三次覚醒(かくせい)剤乱用期を宣言した。これは日本が終戦直後の混乱期の第一次、昭和40年代半ばから63年にかけての第二次乱用期に次いで、戦後三番目の覚醒剤乱用時代に入ったことを意味している。

 第一次乱用期には、戦地からの引き揚げ者や不定期労働者、学生、一部の芸術家や芸能人、暴力団、水商売の女性など比較的限られた人々が乱用者になった。第二次乱用期は、健全層と呼ばれる主婦やサラリーマンまで乱用が広がったことが特徴であった。第三次覚醒剤乱用期は、未成年者、中・高校生の乱用の急激な増加に特徴がある。

 私が勤務するアルコール症専門病院でも、この数年、青少年の薬物乱用の相談が増加してきている。また、若年者の薬物乱用としては、以前は覚醒剤よリシンナーか多く、シンナー乱用者の一部が覚醒剤乱用に移行する傾向が見られたが、近年では中・高校生が最初から覚醒剤に手を出すケースが増えてきている。しかも、女性の乱用者が目立っている。

 彼女たちの多くは、家庭や学校での問題から失意のうちに誘惑の多い環境に近づき、そこで仲間や悪い成人に誘われて、いとも簡単に覚醒剤に手を出してしまう。一度覚醒剤に手を出すと、多くの場合、薬物の魔力から逃れるのは難しい。手っ取り早く「クスリ代」を得るために、極めて高い確率でセックス産業に取り込まれ、その後は悪循環の回路に入り、転落の一途をたどる。そういう女性が増えている。

 覚醒剤依存症になると、専門的治療が必要だが、日本の治療体制は極めて不十分である。幻覚や妄想状態のような覚醒剤精神病に対しては、一般精神病院での治療が可能だが、覚醒剤をやめたくてもやめられないという依存症に対しては、薬物療法はほとんど効果がなく、逆に処方薬の乱用や依存を起こす危険がある。

 薬物依存症はアルコール依存症と似ているので、アルコール症専門医がこの種の相談を受けることか多いが、アルコール症患者より手がかかり、トラブルを起こしやすく、回復率も良くないので、治療を断る専門医も少なくない。私の病院では、酒害家族の薬物問題やアルコール乱用を合併するケースしか入院させないので、これに当てはまらないケースで入院が必要な薬物乱用者は、紹介先を探すのに苦労している。

 私はよく県内の中学や高校で、アルコール・薬物問題の講演を頼まれる。そこで最近は、治療中の患者やすでに退院して回復している酒害者、薬物乱用者を同伴するようにしている。聴衆の生徒たちには、専門家の話よりも、当事者の体験談の方が分かりやすく、インパクトがあるようだ。

 これまで日本では、薬物乱用に主として司法モデルで対処してきた。今その対処能力がほとんど限界に達しているように見える。医療モデルや教育モデルを組み合わせて、薬物問題に対処することが必要と思われる。


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AKH 文責:竹村道夫(1999/5)


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