【 嗜癖問題-家族への援助も大切 】      赤城高原ホスピタル   (改訂 99/05/25)


 上毛新聞は、群馬県下では、購読率ナンバー1の地方新聞です。1999年5月25日づけ読者のページ、コラム「視点:オピニオン21」に、赤城高原ホスピタル院長の「嗜癖問題」に関する論説が掲載されました。サブタイトルが「家族への援助も大切」。以下がその本文です。


 嗜癖(しへき)は「ある習慣への耽溺(たんでき)」を意味し、重症例は病気と考えられます。代表的疾患としては、アルコール依存症がありますが、このほか、薬物乱用、摂食障害(拒食症と過食症)、ギャンブル依存症(病的ギャンブル癖)、買い物依存症、ワーカホリック(仕事中毒)なども嗜癖性の疾患ないし病態と考えられ、さらに暴力的対人関係、世話焼き中毒、強迫神経症なども関連のある問題です。

 嗜癖問題は家族に重複して出現しやすく、世代を越えて継続する傾向があります。三世代も四世代も嗜癖問題が続いている家系も珍しくはありません。

 約15年前、知人の紹介で私は、ある中年女性の相談を受けました。上品な装いのその女性の話によると、彼女の45歳の夫はいわゆる猛烈サラリーマンで金融業界のエリートコースを突っ走っている上級管理職でした。しかし一歩家庭に入るとどうしようもなく横暴で、酔って家族にお説教をするので、妻や子供たちからは敬遠されていました。さらに困ったことに、この中年男性は、週末には決まって泥酔状態で深夜に帰宅し、妻にセックスを強要し、断られると妻を追い回すのでした。この妻は、自分さえ犠牲になれば、家族は救われると思って、この拷(ごう)問のような仕打ちに耐え、この事実を周囲からは隠し、貞淑な妻を演じ続けていました。実際、一部の親族や近所の人を除いて世間の人はこの家庭に問題があることを知りませんでした。

 しかし現実には、この家庭には、深刻な危機が迫ってきていました。高校生の長女は、摂食障害になっており、過食と自発性の嘔吐(おうと)でやせ細りつつあり、時々カミソリで手首を傷つけていました。また、高校受験準備中の長男は、成績は優秀でしたが、不潔恐怖があり、手の皮がむけるほどに手洗いをしていました。中学1年の次男は、もう半年も学校に行っていませんでした。この酒害者の妻は、精神安定薬を常用し、時にはそれを飲み過ぎていました。

 妻と3人の子どもはそれぞれ断続的に精神科医を受診していましたが、その治療はばらばらで、父親のアルコール症と関連した機能不全家庭の問題であるという視点に立った総合的治療はされていませんでいた。

 この例に見られるように、アルコール依存症の大部分は、実は私たちの身近にいる、一見正常な家族、同僚、友人たち、近所の人々などの問題です。そして酒害家庭は原則として多問題家庭です。しかし、しばしばその事実は身内の者だけで囲い込まれ、外部には隠されています。

 私たちは、アルコール依存症を考える際に、潜在患者を含めると日本全国に220万人以上いるといわれる多くの人々を視野に入れ、さらに患者本人だけでなく酒害家族全体を治療・援助の対象としなければなりません。とりわけ、母親の情緒的混乱を媒介にして次世代の子供たちに与える影響について、配慮する必要があります。

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AKH  文責:竹村道夫


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