【 第29回日本アルコール関連問題学会・高崎大会のご報告 】
(改訂 08/02/19)
第29回日本アルコール関連問題学会 ・ 高崎大会
大会長 竹村道夫(赤城高原ホスピタル院長)
第29回日本アルコール関連問題学会は、平成19年6月22日(金)、23日(土)の両日、群馬県高崎駅ビルのホテルメトロポリタン高崎で開催されました。
日本におけるアルコール関連問題に関する学会としては、日本アルコール関連問題学会のほか、日本アルコール・薬物医学会、日本嗜癖行動学会など、幾つかありますが、当学会は、学会員も最大規模で、学会活動が最も活発で、対社会的にも積極的に発言をする学会として知られています。また当学会会員の職種は、精神科医、内科医、産業医など医師のほか、保健師、臨床心理士、ソーシャルワーカー、看護師などのコメディカル、さらに相談室やリハビリ施設のスタッフ、自助グループ関係者など多彩です。当学会が主催し、学会総会を兼ねる地方大会は毎年1回全国規模で行なわれていますが、最近では1年おきに関東甲信越地区とそれ以外の地区支部が主幹となって行なわれています。平成16年度は仙台大会、17年度が高崎大会でした。18年度は広島大会となります。高崎大会の事務局が特別・特定医療法人群馬会、赤城高原ホスピタルとなり、同病院院長である私が大会長となりました。
日本にアルコール専門病院は10ヵ所ほどありますが、赤城高原ホスピタルは北関東では唯一のこの種の病院です。例年ですと、事務局となる医療施設以外に幾つかのアルコール関連医療施設が協力体制をとって地方大会の準備に当たるのですが、上記の事情のため、高崎大会の準備は実務を分担して協力する医療施設がありません。また事務局となる当ホスピタルはいわゆる中小規模精神病院のためこの種の学会企画準備の経験もないため、当大会の準備はスタッフの負担が大きく、当院にとって大きな試練となりました。私たちは、岡崎直人氏(さいたま市こころの健康センター)を運営委員長として、そのほか40名の関東地域運営委員の協力を仰ぎ、約2年前から大会準備に取りかかりました。
高崎大会では、特に多職種の支援者の力を結集するという点を意識して、メインテーマを「点と線、つなぎ広げる支援の輪」としました。高崎大会準備の特徴としては、私たちは、早くからインターネット上に高崎大会オフィシャルサイトを立ち上げました。また大会参加申し込みをネット上で行なうことができるようにし、事前参加申し込みに料金割引制度を適用しました。
高崎大会プログラム内容としては、記念講演、特別講演のほか、特別企画、ポスターセッション、分科会、懇親会、ランチョンセミナーなどを用意しました。また当大会は、日本精神神経学会専門医更新単位対象になりました。
大会当日、JRの高架線故障と人身事故で新幹線ストップするという予想外のトラブルが発生し、出席者の一部に遅れが出ましたが、それ以外には大きなトラブルもありませんでした。
【特別企画T】、22日午前中には、特別企画T「回復方法論−2つの例」として、アメリカのセレニティーパークというリハビリテーション施設と名古屋の「仲間の会作業所」とにおける取り組みの紹介がありました。この企画は、開会式前に各種委員会と並行して行なわれましたが、大盛況で約450名が参加されました。この企画とそれに続き行なわれたランチョンセミナー参加者が多くて、その影響か、例年参加者の少ない開会式、総会にも多くの方々が出席されました。
【ランチョンセミナー@】 22日のランチョンセミナーでは、「アルコール依存症の薬物治療」と題して、国立病院機構久里浜アルコール症センター、精神科医長の宮川朋大先生が講演をされました。アカンプロセート(渇望抑制剤、日本では未発売)や抗酒剤等の治療成績が報告されました。参加者が多く、椅子が不足していたため急遽50席追加されました。
【記念講演】(22日午後)としては、群馬大学大学院医学系研究科脳神経精神行動学教授・三國雅彦先生が「アルコール乱用・依存症とうつ病へのなりやすさ」について講演をされました。うつ病の生化学的研究の進歩等がテーマで、一般向けとしてはやや難しい内容だったにもかかわらず、参加者多数でした。またスライドを多く使った最先端の生物学的研究の説明だったため、格調高い学術学会らしい雰囲気になりました。
【ポスターセッション】は、合計26題が発表されました。盛況すぎて、部屋が狭く、廊下や入口のドア外まで人が溢れるほどでした。
【懇親会】(22日夜)では、出店のうどんなどは売り切れましたが、料理やドリンクの追加は必要なく、料理は味も良く、適量で、全体として好評でした。
分科会(23日午前)としては、以下の7セッションが同時並行で行なわれ、TVや新聞などマスメディアの取材がありました。
【第1分科会】「今、臨床現場で何が起きているか −産業医および各科医師との連携−」では、精神科医側から2名、内科医側から2名が話題提供をしました。この分科会は、日本医師会認定産業医研修単位対象になりました。約70名の参加がありました。参加者は医師が中心で議論が盛り上がりました。内科からはアルコール依存症という言葉を使用せず、“高γ-GTP血症”と呼ぶことの提案があり、司会をしていた私(竹村)は、精神科医の考えとはまるで反対なことに驚きました。内科医のアルコール依存症治療の必要性の認識が甘いと感じました。
【第2分科会】「飲酒運転」は、現在社会問題となっているテーマだけに、参加者が多く、資料がほとんどなくなりました。
【第3分科会】「未成年者のアルコール・薬物乱用問題」は、約40名が参加し、資料が不足し補充しました。例年よりも内容が充実していると感じたという参加者の感想がありました。
【第4分科会】「在日外国人のアルコール関連問題への支援」は、事前参加申込が9名のみだったので、心配しましたが、実際の参加者は約15名(うち医師が5名)でした。参加者は多くはありませんでしたが、その分議論が盛り上がりました。
【第5分科会】「アルコール関連問題と生活保護」は、約60名が参加し、和やかな雰囲気の討論が行なわれました。
【第6分科会】「地域精神保健とアルコール問題 −久里浜研修を受講してみて−」は、約20名が参加し、質疑応答が活発に行われました。
【第7分科会】「アルコール関連問題と家族 −女性の取り組み・男性のかかわり−」は、家族の参加が多く、約170名が出席し、椅子が不足していたため急遽20席追加しました。話題提供者の一人、信田さよ子先生の講演会のような雰囲気もありました。
【基礎講座】23日午前には、分科会と並行して2つの基礎講座がおこなわれました。基礎講座1(前半)は、「アルコール依存症の家族システム」で、講師は遠藤嗜癖問題相談室室長の遠藤優子先生が担当されました。基礎講座2(後半)は、「アルコール性臓器障害」で、講師は、利根中央病院(群馬県)の内科医長、大塚敏之先生でした。アルコールによる肝障害、消化器系障害を初めとする数多くの臓器障害の解説がありました。約150名が参加しましたが、参加していない人も資料を欲しがるため、プリントが不足し、急遽追加しました。
【特別企画U】 23日午前には、分科会と並行して特別企画U「アディクションフォーラム・古馬の国から −ターニングポイントから回復へ−」というテーマで、群馬県内の嗜癖関連問題自助グループの紹介、当事者の体験談発表がありました。約60名が参加されました。出入りが多く、お目当ての報告を聞いて退出する人も多いようでした。
【ランチョンセミナーA】23日のランチョンセミナーでは、「アルコールと生活習慣病」のテーマで、慶應義塾大学名誉教授・三井住友海上きらめき生命健康管理センター所長の石井裕正先生が講演をされました。高名の講師だったためか、参加者多数で立ち見の人がいるほどでした。
【特別公開講演】(23日午後)としては、Mayo Clinic College of Medicine 精神科名誉教授、丸田俊彦先生が、「アメリカの子犬は甘えるか?― 間主観性理論から見た物質使用障害の治療 ―」と題して講演をされました。参加者多数で、いつものように原稿なしでフロアの反応を見ながら講演する講師の分かりやすい解説と名調子が好評でした。
【オープンホスピタル】高崎大会事務局である赤城高原ホスピタルへの送迎つき見学オプショナル・ツアーを高崎大会直後に行いました。ホームページで知名度が高く、マスメディアにもよく登場する赤城高原ホスピタルへの関心は高く、大会当日にも参加希望者の問い合わせが多数ありましたが、大型バス2台の座席数という制限のため、全てお断りすることになりました。それでも事前申込者約90名が参加されました。参加者から「重症患者を受け入れながら、開放的で明るくて良い」という感想がありました。
大会中、メタボリック症候群と飲酒問題との関連がしばしば取り上げられました。また「ヒゲの殿下」として知られる三笠宮寛仁さまが、アルコール依存の状態にあると診断され、専門医による治療に取り組むことが宮内庁から発表されましたが、これが高崎大会初日の22日であったため、直ちに大会参加者に報告され話題になりました。
高崎大会参加者は約750名、懇親会参加者は約230名でした。日本精神神経学会専門医更新単位取得者は50名、日本医師会認定産業医研修単位取得者は20名でした。予算的には、約1,000万円の費用がかかりましたが、協賛金などがあり赤字はでませんでした。高崎大会全体として、参加者から「内容が良かった」、「スタッフの連携が良かった」、「活気があり盛り上がっていた」などの感想をいただきました。
大会に参加された方、大会準備に協力いただいた方々にあらためて感謝いたします。
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⇒ TEL:0279-56-8148
文責:竹村道夫(初版:07/06/28)