【 アダルトチルドレン 】      赤城高原ホスピタル   

(改訂 03/11/06)


[ 目次 ] [アダルトチルドレンという言葉の由来、AC、ACOA] [クラウディア・ブラックの登場] [4つの役割] [アメリカの場合] [ACOD] [日常英語のAdult Children] [機能不全家庭の具体例] [機能不全家庭から嗜癖へ] [ACに特徴的な心理行動パターン] [ACに見られやすい精神障害] [臨床上の問題点] [日本のACブーム] [伝統的精神医学はACが嫌い?] [ACのいろんな意味合い−ACブームとACバッシング] [ACの意義] [リンク] [参考書]

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[アダルトチルドレンという言葉の由来、AC、ACOA]
 アルコール依存症患者の子供として育ち、現在は成人に達した人々のことを英語で Adult Children of Alcoholics と言います。頭文字を取って、ACOAとかACとも書きますが、適当な日本語訳がなく、日本でもこれらの略語で呼んだり、またはそのまま英語読みで、アダルトチルドレン(1人ならアダルトチャイルド)と言ったりします。この用語(アダルトチルドレン、以下AC)は、1977年頃から米国のアルコール臨床にたずさわる心理療法家やソーシャル・ワーカーたちの間で使われはじめました。

[クラウディア・ブラックの登場]
 クラウディア・ブラック(Claudia Black)は、多くのACの少年期を調査して、それまでの一般常識であった、酒害家庭の子供たちは逸脱的な反社会的行動を起こしやすいという説を訂正して、著書 "It will never happen to me"(1981)(邦訳、「私は親のようにならない」、1989)で、これらの子供たちは目立つけれども、むしろ少数派であると指摘しました。そして、目立たない大多数の子供たちに対してもケアが必要であると注意を喚起しました。というのは、これらの子供たちは、混乱した家族システムに適応して少年時代を生きのびますが、思春期以後に、特徴的な感情と行動の障害を起こしやすいからです。

[4つの役割]
 ブラックは、ACの挫折や障害の起源を子供時代の機能不全家庭への適応様式にさかのぼって考察し、酒害家庭の子供たちは、暗黙のルールとして、「しゃべるな。信じるな。感じるな」という信念を持っていることが多いと述べています。また彼女は、子供たちの家庭での役割を「責任を背負いこむ者」、「順応者」、「なだめ役」、「行動化する子供」の4タイプに分けて分析しました。 [TOPへ]

目の体操−ぐるぐる[アメリカの場合]
 ブラックが指摘し解説したAC問題は、精神医学の研究者や専門家よりも直接臨床にたずさわるソーシャル・ワーカーに受け入れられ、さらに臨床の場を離れて、マスコミでとりあげられました。1980年代前半には、AC関連の書籍がベストセラーになるなど、いわば「AC運動」が米国一般市民の中に浸透し、全米各地に多数のACの自助グループが生まれました。 [TOPへ]

[ACOD]
 そういうわけでACは、診断名ではありません。むしろ「自分の生きにくさの由来を理解し、成長の出発点とするための自己認識、自覚」と言ってよいでしょう。「AC症候群」という用語も使われてはいますが、その概念すら定着しているとは言えません。たとえばAC問題と同様の現象は、酒害家庭以外の機能不全家庭の子供たちにもおこりうるわけで、実際、AC概念は1980年代後半に米国では Adult Children of Dysfunctional Family(機能不全家庭出身の成人)に拡大され、現在では、ACは通常はこの意味で使われています。この場合には、「機能不全家庭」という漠然とした言葉のために、ACという用語の概念がますます拡大することになります。なお両者を区別するときには、ACOA(酒害家庭)、ACOD(機能不全家庭)という短縮形を用います。
 
[日常英語のAdult Children] 
 ここでもう一度、アダルトチルドレンという言葉の由来を振り返っておきましょう。英語のChild(複数はChildren)は、日本語の「子供」という言葉と同じように、親に対する子と、成人に対する子の両方の意味があります。だから「大統領の(今は成人した)3人の子供たち」という時は、The Three Adult Children of the President と言います。つまり Adult Children は日常会話の用語なのです。
 本来、Children of Alcoholics(酒害者の子供) というフレーズの Children は親子関係の子供を意味しており、若年者に限らないのですが、Children の語感から未成年をイメージしやすいために、その子供たちが大人になった人々を意味する Adult Children of Alcoholics が使われるようになりました。そして、その人々と同じような立場にあり、同じような問題を持つが、アルコール以外の問題を含めた機能不全家庭に育った人を意味する Adult Children of Dysfunctional Family という言葉ができました。そして、Adult Children of Dysfunctional Family という言葉の後半部分を省いた Adult Children という用語が同じ意味で使われるようになりました。ただし英語の Adult Children は、前述したように「成人した〇〇の子供たち」という意味で用いられる普通名詞の日常用語です。アダルトチルドレンという言葉を理解するためには、この英語の起源と一連の流れを知っておくことがとても重要です。 [TOPへ]

[機能不全家庭の具体例] 
 「機能不全家庭」の具体的内容としては、親(家族)の性格障害、精神障害など。養育者からの虐待(精神的、身体的、性的)。子供の自主性を認めないこと。家庭内不和。子供への無関心、ケアの不足など。同胞間での不平等など。仕事・環境・近所のストレス。子供への過重な期待などの問題があります。要するに緊張した家庭で、子供たちが安心感の持てない不安な家庭です。中でも、親や親族による子供への不適切な性的言動や性的接触は、子供の精神的成長に深刻な悪影響を及ぼします。性虐待被害者の治療の際には、しばしばPTSD(心的外傷後ストレス障害)としての認識が必要です。特に父親からの Sexual Abuse(性虐待)の場合には、解離現象を伴いやすいので注意が必要です。(解離現象→記憶喪失、多重人格、失神、ヒステリー発作、離人症など、人格の一部が意識的コント−ルから切り離される現象を言います。「トラウマと解離性精神障害」参照)。 [TOPへ]

[機能不全家庭から嗜癖へ]
 このような機能不全家庭では、子供の情緒的欲求は満たされず、子供たちは、慢性の情緒的見捨てられを体験します。これは子供にとってトラウマ(心の外傷)となり、子供の健全な自己愛、自尊心の発育は妨げられ、見捨てられ不安と恥辱感が心の奥深くに根を張ります。そこでは、真の自己は姿を消し、空虚感がつのります。やがて子供たちは、やり切れない空しさを埋めようとして、「偽りの自己」を作り、仮面をかぶって生きるか、物質や人、嗜癖的行動に依存するようになります。 [TOPへ]

腹筋運動[ACに特徴的な心理行動パターン]
 ACに特徴的な徴候として以下のようなことがあげられています。
◆自分の判断に自信がもてない。◆常に他人の賛同と称賛を必要とする。◆自分は他人と違っていると思い込みやすい。◆傷つきやすく、ひきこもりがち。◆孤独感。自己疎外感。◆感情の波が激しい。◆物事を最後までやり遂げることが困難。◆習慣的に嘘をついてしまう。◆罪悪感を持ちやすく、自罰的、自虐的。◆過剰に自責的な一方で無責任。◆自己感情の認識、表現、統制が下手。◆自分にはどうにもできないことに過剰反応する。◆世話やきに熱中しやすい。◆必要以上に自己犠牲的。◆物事にのめり込みやすく、方向転換が困難。◆衝動的、行動的。そのためのトラブルが多い。◆他人に依存的。または逆に極めて支配的。◆リラックスして楽しむことができない。 [TOPへ]

[ACに見られやすい精神障害]
 上記のような特徴をもつACは、当然多様な不全感を持ちやすく、はっきり病気と認識されないレベルの感情、行動障害をもつことが予想されますが、臨床的にも、アルコール・薬物依存症、摂食障害、境界型人格障害などとACOAとの関連が報告されています。また、アルコール依存症者の配偶者にはACOAが多いこと、障害者のケアに当たるソーシャル・ワーカーなどの職種にもACが多いことが指摘されています。 [TOPへ]

[臨床上の問題点]
 臨床的にACとかかわっていると、表面的な社会適応性からは予想がつきにくい彼らの深い感情と対人関係の障害に直面してとまどわされることがしばしばです。ACの障害の程度はいろいろですが、治療的には一般的な個人療法の他に、教育的治療、認知行動療法、家族療法、集団療法、治療ネットワークや自助グループの利用などを組み合わせることが重要です。虐待を受けている、あるいは解離症状があるような、中等度ないし重症例では、自助グループだけでなく、専門家の治療を受ける方が安全です。このようなACとかかわる援助者と専門家には、(心的)外傷性精神障害、とくに解離症状への理解と、対応能力が必須です。 [TOPへ]

[日本のACブーム]
 ACにはさまざまな意味合いが込められおり、その概念が整理、吟味され、既成の精神医学に組み込まれるためには、まだ今後の研究や考察が必要です。日本では、この用語は上記の ブラック の著書の邦訳出版(1989)の前後から使用されるようになり、たちまちのうちに嗜癖関連問題の専門家や臨床家、患者、家族や関係者の常用語になりました。そして、1990年代後半には、AC関連書籍の出版ブームがあり、この用語はマスコミ用語となりました。 [TOPへ]

[伝統的精神医学はACが嫌い?]
 このような一般用語としてのACは最初からACODを意味していました。そのためもあって、この語の持つ曖昧さと安易な使われ方が嫌われて、ACは伝統的精神医学からは排除されつつあり、今では嗜癖問題関係者と一般大衆の用語になってしまいました。嗜癖治療関係者の中でも精神科医師は、ACという用語を避け、外傷性精神障害、解離性障害、PTSDといった専門用語を使う傾向があります。 [TOPへ]

[ACのいろんな意味合い−ACブームとACバッシング]
 スタート時点では、「酒害家庭で育ち、いまは大人になった人々」という意味にしか過ぎなかったACは、アメリカで「AC movement (AC市民運動 )」となった時点から、独自の意味を持ち初め、ACにいろんな意味合いが込められるようになりました。それでも、ACOA運動の盛り上がりの後で、ACOD運動が広がったアメリカでは、日本のような混乱は少なかったように思います。日本では、ACOAという起源をとばして、いきなりACすなわちACODとして、アルコール医療の臨床を離れてブームになったために、「アダルトチルドレン」という用語はひどい混乱に巻込まれました。その中には明らかな誤用もあり、たとえばマスコミで、「大人っぽい子供」とか、「子供っぽい大人」というような意味でこの用語が使用されたりしました。一方では、当然ながらACODのあいまいさに対する反撃が起こりました。この現象は、ACブームに対して、ACバッシングと呼ばれています。その一部はたとえば、「何でも親のせいにするな」というような、ひどく表面的な反発でした。ACODに含まれる「機能不全」を測る尺度はありません。臨床家は、「自分の家庭は、仲間の家庭ほどひどくなかった。自分はACの仲間に入れてもらえない」と嘆く患者や、「同じ家庭で育った兄弟姉妹のうちの私だけがなぜACなの」と問う患者に返事をする必要がありました。筆者自身を含めて、ほとんどの治療者が「あなたが傷ついたのなら、あなたはまぎれもなくACですよ」と答えたはずです。ACが他人に対する否定的な非難の言葉として使われる危険性を避けるため、また傷つきやすいACを守るために専門家からは、「ACは、本人の自覚においてのみ有用である」というようなもっと積極的な発言もありました。そうすると今度はこの発言にそって、ACバッシングとは逆方向の極端な論調に走る人が現れました。それはたとえば、「ACは、本人の自覚においてのみ使われるべきで、ACに関して、治療や予防など専門家が論じることはおかしい」といったものです。まるで、ACを政治的に不適切な差別用語にするような勢いです。

 筆者の立場は中立的です。しかしどちらかというといつもACOAという起源を意識しながらACという用語を使っています。これは、筆者がアルコール医療の中で仕事をしているからかも知れません。「酒害家庭に代表されるような機能不全家庭に育って、そこから何らかのネガティブな影響を受けて大人になった人」というほどの意味合いでACという用語を使っています。ACは病名ではありませんから、AC自体が治療や予防の対象になるということはありません。またACの全員が医療の対象になるとは思いませんが、ACは精神障害、行動障害の危険因子を抱えた人々であり、ACの一部はたとえ診断はされていなくても、虐待のようなトラウマに関係した外傷性精神障害になっています。また筆者が日頃治療している重症の摂食障害や若年の薬物乱用者の大部分は、明らかな機能不全家庭で育っており、その意味でACODです。

 ACという用語にいろいろな意味を付加するのは良いとしても、自分勝手に付加した意味を周りに強制するのはいかがなものでしょうか。筆者の考えでは、AC自体には否定的意味も肯定的意味もありません。他の一般用語と同じように、文脈次第でどちらの意味にも使用できます。 [TOPへ]

[ACの意義]
 AC問題が従来のアルコール臨床の中で、比較的見過ごされがちであった子供たちに光を投げかけ、嗜癖の世代連鎖の問題を解く鍵を与えた意義は大きいといえます。現在ではACの自助グループも多数できています。

上述のように、AC自体は治療対象、予防対象ではありませんが、現在治療中のケースにAC関連の問題がある場合には、AC問題の教育、家族療法を視野に入れて治療することが大切だと、赤城高原ホスピタルでは考えています。  [TOPへ]

[リンク]
SPリンク集:アダルトチルドレン(AC)リンク集(03/01/20確認)
  学術研究論文・文献リスト、医療機関・研究機関、自助グループ、個人HPなどから、内容のあるサイトを選んでいます。[担当:法政大学、武内砂由美氏]
加藤篤志「アダルト・チルドレンの語られ方」 (03/01/20確認)
  日本の雑誌記事(1996年1月−1998年3月)で、ACがどのような意味と文脈で使われたかを分析しています。

[参考書]
アダルト・チルドレンと家族―心のなかの子どもを癒す 斎藤 学著 1996年4月、学陽書房発行 1,631円  [TOPへ]


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AKH 文責:竹村道夫(初版: 99/2) 


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