【 睡眠関連摂食障害 】
(改訂 15/11/05)
[ はじめに ]
このページは、一般のビジターにとっては、やや専門的過ぎるかもしれません。(このページは未完成、目下工事中です!!)
[疾病概念]
研究者によっては、夜間摂食症候群(nocturnal eating syndrome;
NES)と睡眠関連摂食障害(sleep-related eating disorder;
SRED)とを区別しています。
夜間摂食症候群(NES)では、不眠、夜間のむちゃ食いと朝の食欲不振が見られます。夕食から入眠前までの間や中途覚醒時に強い摂食欲求があり、これを我慢すると眠れなくなるため夜間の摂食行動が習慣化します。患者は夜間の食事中には完全に覚醒しており、翌日も記憶があります。一般に、食事内容は普通です。
→ O’Reardon JP,et al:Night eating syndrome:diagnosis,epidemiology and management.CNS
Drugs 19:997-1008,2005
一方、睡眠関連摂食障害(SRED)では、典型的な場合、患者は就眠直後から1時間以内に過食を始めます。多くの場合、食事内容は、脂肪分や糖分の多い高カロリー食です。時には料理までしているのに、翌朝、患者はその間の記憶が全くありません。患者はストレス状況下にあり、自信を喪失して混乱していることが多いといわれています。
→ Auger RR:Sleep-Related Eating Disorders.Psychiatry 3:64-70,2006.
[症状]
患者は夜間の過食を避けるために、ベッドルームや冷蔵庫に鍵をかけたり、台所に誰かに寝てもらったり、冷蔵庫のドアに鈴をつけたりしますが、全て役に立ちません。
睡眠関連摂食障害では、体重増加、食物がのどに詰まる危険性(うとうとしながら食べるため)、火事など料理中の事故を起こす危険性、睡眠障害、自己抑制力喪失感などの問題が見られます。
意識がない状態で調理をすることがあり、約30%の症例で外傷を伴うという報告があります。
→ Dang A,et al:Zolpidem induced nocturnal sleep-related eating disorder(NSRED)in
a male patient.Int J Eat Disord 42:385-386,2009.
SRED患者の3分の2は女性で、患者の平均年齢は27歳(多くの場合、10代後半か20代前半に発病)。患者は夜間に高カロリーの食事をし、43%の患者は肥満しています。84%の患者は全くかあるいはほとんど夜間過食の記憶がありません。典型的な場合、患者は就眠直後から1時間以内に過食を始めます。
[原因]
SREDは、時には、アミトリプチリンなどの抗うつ剤投与に続いて出現しますが、また時には、睡眠時無呼吸症候群やperiodic
limb movement disordersに続いて夢遊病とSREDが見られることがあります。脳炎やナルコレプシーなどが引き金になることもあります。SRED患者は正常者よりもアルコール症、薬物乱用、睡眠障害などの既往歴がある場合が多いことが知られています。気分障害や不安障害を合併している、あるいは併発する可能性が高いものの、これらの特定の精神障害との関係性は知られていません。
薬剤性のものとしては、睡眠薬(トリアゾラム、ゾピクロン、特にゾルピデム)で多くみられるという報告があります。
→ Hwang TJ,et al:Risk predictors for hyposedative-related complex sleep
behaviors:a retrospective,cross-sectional pilot study.J Clin Psychiatry
71:1331-1335,2010.
抗精神病薬(炭酸リチウム、リスペリドン、オランザピン)などでもみられるという報告があります。
→ Howell MJ:Parasomnias:An Updated Review.Neurotherapeutics 9:753-775,2012.
睡眠研究者は、SREDは夢遊病や夜驚症などと近い病態(non-REM
parasomnias)である、と考えています。多くの研究者がSREDは、摂食障害ではなく、睡眠障害である、と考えている一方で、摂食障害患者の10-15%がこの障害を経験しているという報告もあります。またSRED患者の半数以上が、情緒的、身体的または性的虐待被害者であるという報告もあります。
[併存症]
合併しやすい疾患として、レストレスレッグス症候群、睡眠時遊行症、周期性四肢運動障害、睡眠時無呼吸症候群、気分障害などがあります。
[治療]
治療に関しては、薬剤惹起性ではないか、を考慮すべきです。睡眠薬や抗精神病薬投与があれば、その減量中止が可能かどうか、検討してみましょう。
精神行動療法、抗うつ薬や抗てんかん薬などが試みられています。睡眠剤によって病状を悪化させることがあります。また処方薬依存を起こしやすいとも言われています。
ストレスを低減することが重要なので、ストレスマネージメントクラス、アサーティブトレーニング、カウンセリングなどが有効です。患者は、アルコール、カフェイン、薬物乱用を避けることが重要です。
[院長コメント]
正直に個人的体験を言うと、最近(2003年)までこういう疾患名を知りませんでした。摂食障害患者からは、夜間の過食と翌日の記憶がないという報告を聞くことが少なくないので、記憶障害に関しては、摂食障害患者にしばしば見られる解離性症状だと思っていました。
摂食障害患者は、昼間の時間帯でも、「食べている時には、頭が真っ白になります」というような訴えをするし、夜間の過食はよく見られる症状だから、夜間の摂食行動は摂食障害の部分症状であり、記憶がある場合もない場合もある、という程度の理解をしていました。
でも、良く考えてみると、過去に、夜間の過食とその記憶がないことだけを訴える、あるいはそれを主症状とする患者さんを数名(4,5名以上?)診た、あるいはそういう方かご家族からのご相談を受けた可能性があります。この疾患の存在を知る前ですから、私は、それらの方を、単なる「摂食障害」と診断したはずです。
今後そういう患者さんを診たら、睡眠関連障害、non-REM
parasomnia という観点からも観察し治療すべきである、という自戒を込めて、このページを作りました。
NESと他の精神障害との関係、とくにNESと摂食障害とのかかわりに関しては、後日、もう少し文献を探って、研究、考察をしてみたいと思っています。いずれにしても、摂食障害の部分症状というより、睡眠障害という視点からみるべき患者さんがいる、少なくともそう主張する研究者がいる、ということは、私にとってはちょっとした驚きでした。
[リンク]
残念ながら、この疾患に関する解説を取り上げた日本語のサイトは、09年2月現在でもほとんどありません。以下は、英文サイトです。(10/08/15追加)
Nocturnal Sleep-Related Eating Disorder (10/08/15確認)
NS-RED(SREDの別名)の基礎知識、Wikipediaの項目。歴史、2症例など、かなり詳しい。(お勧め)
Treatment of nocturnal eating syndrome and sleep-related eating disorder
with topiramate. (09/02/25確認)
トピラメート(topiramate, Topamax, トパマックス)による治療が有効という、多分最初の報告。3症例(2003年3月)
(院長註)トパマックスは、日本では未発売のグルタミン酸拮抗薬。この薬剤は、片頭痛予防薬、抗てんかん薬として、アメリカで認可されている。日本では、現在、抗てんかん薬としての治験が進行中。さらにまだ研究段階だが、アルコール依存症治療薬、コカイン依存症治療薬、本態性振戦の治療薬、難治性双極性気分障害治療薬として、さらにダイエット剤としての可能性が有望視されている。注目の薬剤。
Millions of Americans 'sleep eat' - ABC 4.com(09/02/25確認)
abc 4 News 提供(08/08/19). 多くの患者は、この病気に罹っているという自覚がない、・・・
KAALtv.com - Nearly a million suffer from odd sleep eating disorder(09/02/25確認)
KAAL-tv、08/08/19の放送、10万人以上のアメリカ人が罹患している奇妙な睡眠摂食障害、・・・・・・
sleep-related eating disorder(10/08/15確認)
http://www.webmd.com/sleep-disorders/guide/sleep-related-eating-disorders
NS-REDとNESについて、症状、診断、治療など。全人口の1−3%、摂食障害患者の10-15%がこの疾患(NS-REDとNES)にかかっている。治療について、睡眠薬は、混乱と不手際な動作を強め、事故を誘発する可能性があるので避けるべきである。飲酒とカフェインの摂取を控えるべきである。・・・・・・
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文責:竹村道夫 (初版: 04/09/11)