【 自慢の職場−Jamic Journal 記事 】   赤城高原ホスピタル

(改訂:08/02/19)


[はじめに]  雑誌、「JAMIC JOURNAL」に赤城高原ホスピタル関連の記事が掲載されました

月刊誌、「JAMIC JOURNAL」(08/02/19確認)は、医師や病院の情報マガジン(日本医療情報センター発行)です。

2005年9月号(VOL.25 NO.9)に、赤城高原ホスピタル関連の記事が掲載されました。

記事は、同雑誌の38−40ページにあり、「自慢の職場」、「集団療法・家族療法に取り組むアルコール依存症専門の医療施設」というものです。

ホスピタルに勤務する心療内科医、齊藤麻里子氏のコメントと共に、ホスピタル開院時の苦労や、治療理念、病院ホームページへの反響などが報告されています。

JAMIC JOURNAL のご好意により、以下に記事を転載します。なお、写真は省略しました。


[集団療法・家族療法に取り組む
アルコール依存症専門の医療施設]


キーワード……アルコール依存症、集団療法、自助グループ、PSW

リード文
医療法人群馬会赤城高原ホスピタルは、群馬県渋川市郊外にあります。赤城山麓の景色のよい小高い丘に位置し、緑深い静かな環境でアルコール依存症に専門特化して治療に当たっています。アルコール依存症専門医療の施設は全国に約10施設ありますが、北関東ではここだけです。さらに、入院治療や集団療法を行い、外部からの見学・研修を積極的に受けているこの病院は、さまざまな意味で独自路線を歩んでいるといえるでしょう。自らウェブサイトを開設・運営する院長の竹村道夫氏と心療内科医の齊藤麻里子氏に聞きました。

構成・仁科 典子

病院概要
医療法人群馬会 赤城高原ホスピタル
院長/竹村 道夫
所在地/〒379-1111 群馬県勢多郡赤城村北赤城山南平1051
TEL/0279-56-8148
URL/http://www2.gunmanet.or.jp/Akagi-kohgen-HP/

おもに統合失調症の医療を展開する群馬病院(精神・465床)を運営する医療法人群馬会によって、1990年12月に開院されたアルコール依存症専門の医療施設である。入院形式は原則として任意入院で、病棟は性別によって棟が異なる。1階は急性期51床(閉鎖病床9床)、2階は療養型56床、全部で107床。100人以上のスタッフを擁し、そのうち、4名のPSWと3名の常勤医師(非常勤医師は13名)が中心になっている。隣接する「リカバリーハウス」は10部屋の福祉ホームで、退院後の患者が1、2年くらい居住して社会復帰していく。




専門特化した理想の医療を展開してみたいという思い

 「いろいろな社会問題には、潜在的にアルコール問題が絡んでいます。つまり、アルコール依存症が背景にあって、交通事故、虐待、暴力、DV、不登校、摂食障害、薬物依存などの問題が起きるのです。ところが、アルコール問題が病気とは認識されないために、これまで適切な対応がなされてきませんでした」(竹村道夫氏)

 1990年12月にこの病院ができたとき、竹村氏がまず取り組んだのが保健所まわりだった。次いで、行政機関・精神保健福祉センター・警察などで講演などを行い、アルコール医療におけるネットワークの重要性を積極的に説いてきた。

 そもそもは、早期治療をめざした開院だった。ところが、軽症アルコール症患者の治療ニーズはあるはずなのだが、どうにもその把握が難しかった。当初病院に現れた患者の多くは、末期のアルコール薬物問題患者や、家庭内や地域で繰り返しトラブルを起こした患者など、多くの医療機関で匙を投げられた患者であった。荒れた学校さながらの状況に対応しきれず、トラブル患者を全員強制退院にしたところ、病棟は空床でがらがらになり、開院後5年くらいは赤字経営が続いた。

 それでも、医師の指導のもとに、スタッフ同士で勉強・研修を続け、いろいろなトラブルへの対応にも徐々に慣れてきた。そのうちに、アルコール問題に加えて摂食障害・薬物依存・自傷などを合併している患者が開放的な治療環境を伝え聞いて、全国から来院するようになった。

 やがて患者の回復ぶりを直接見聞きした保健師がこの病院で行われているのは非常に新しい取り組みだ、と気づいて見学に訪れるようになった。その方々の紹介で、民生委員や保健福祉行政担当者、学校関係者などが集団で研修に来るようになった。そのような地道な努力の積み重ねによってネットワークがひろがってきた。

 「肝臓をよくするだけでは、アルコール問題は解決しません。総合病院や内科医などの紹介元が当院に送ってきた患者が、めざましく改善して紹介元に戻っていきます。そうすると一般科の医師たちも、やり方によっては、アルコール、薬物問題の患者でも回復できるのだと驚きます。こうして、医療連携のネットワークができていくのです」(竹村氏)

 赤城高原ホスピタルで特徴的なのは、治療スタッフと入院患者の関係性である。医師が治療するのではなく、患者と家族が自分たちで回復の道を探る。医療スタッフは情報を提供し、道案内をする、というスタイルが貫かれている。週に1回、スタッフの入らない入院患者全員の合同ミーティングが開かれ、治療上のいろいろな問題について討議する。討議の結果に基づいて、病院スタッフとの話し合いがもたれる。また、月に1回の選挙で選ばれた患者たちが、自治会を構成する。委員長、副委員長、会計係、図書係などがいて、レク係は第3火曜日に行われる体育室でのバレーボールなどのレク療法の中心的役割を担う。

 ホスピタルでは、アルコール症に合併しやすい薬物問題、ギャンブル、盗癖、摂食障害などについて、本人・家族のためのプログラムが用意されている。朝夕の時間帯には5つくらいのミーティングが同時平行で持たれ、昼間の時間帯にはスタッフが主催する集団治療セッションがある。このほか、回復した患者が家族や仲間と話し合うメッセージミーティングと呼ばれる交流の場も用意されている。たとえば薬物依存症については、毎週木曜日に、既に退院した患者、外来患者、入院患者が一緒になって家族向けと本人向けとふたつのミーティングを開いている。このようなミーティングの場で、回復した、あるいは先を行くモデルと接する機会があるということが治療上重要であると医師は言う。

 「本当は酒のせいで対人関係はめちゃくちゃになっているのに、アルコールに頼ってやっと人と関われていると思っている人たちもいます。その人たちがどのように素面で人と関わっていけばいいのか、考える場としてもミーティングは重要です。また、アルコール依存症は、“否認の病気”といわれ、本人が治療を受ける気になるのは重症段階になってからです。その前に家族が困って医療機関に相談に訪れるのですが、アルコール依存症は“家族の病”ともいわれており、飲酒をやめさせるために家族がとった行動が、かえって飲酒問題を悪化させることが多く、イネーブリングと呼ばれます。このため、家族療法や家族のためのプログラムで家族に正しい対処行動を学んでもらう必要があるのです」(齊藤麻里子氏)

 こうして、家族は自身の回復のために家族会に出席し、患者本人が退院後も継続される。患者自身が通院を止めてしまっても、家族が受診を続けるなかで患者の再受診を促せることがある。



病院ウェブサイト開設が広く関心を持たれる転機に

 赤城高原ホスピタルの大きな転機になったのは、ウェブサイトの開設である。これは、1998年末に竹村氏の手づくりで始められ、いまなお、竹村氏による更新が続いている。これほど医療情報を詳しく解説したサイトはあまり例がなく、患者・家族・医療関係者に限らずさまざまな人たちが見ている。

 「毎日300人以上の方々が見ており、全国から問い合わせや激励が来ます。ホームページを見たマスメディア関係者や弁護士なども病院を訪問されるので、多くの方々と知り合いになりました。当院くらいの小規模精神病院で黒字経営を維持することは極めて困難といわれ、その秘訣を知りたいと、病院院長なども全国から視察に来られます」(竹村氏)

 さらには、スタッフの就職にも結びついていて、齊藤氏もその一人である。

 名古屋市出身の齊藤氏は、1997年に旧・山梨医科大学を卒業し、東京の病院で内科系ローテート研修を受けた。その後、東京大学心療内科に入局し、二年間、静岡の病院の心療内科で入院・外来診療を行った。その後、東京大学大学院在学中、東大病院や新潟の一般総合病院で心療内科外来診療を行った。大学院3年時、インターネットで赤城高原ホスピタルを見つけ、1年間非常勤医として勤務、約1年の産・育休を経て、今年6月から再び非常勤医として、週に2日、診療にあたっている。系列の群馬病院に託児所があり、育児をしながらでも働きやすい。

 夫が群馬で勤務しているため、齊藤氏も群馬で働きたいという希望があった。また、摂食障害の治療において家族療法は非常に重要だと考え、早い時期から研究会などで積極的に学んできた。

 「アルコール依存症でも摂食障害でも家族問題が病気と密接に絡んでいるので、当事者だけでなく、家族のための家族療法や集団療法にも取り組みたかったのです。ここでは、これまでに経験した以上に多くのタイプの患者や家族に、集団療法やミーティングが提供されています。集団療法にはこれからも、さらに積極的に関わっていきたいですね」(齊藤氏)

 赤城高原ホスピタルでは、基本的に、約1時間のインテークにあたったPSWがそのまま患者の担当になる。そして、生活全般にわたって定期的に面接を続けていく。心療内科では、PSWと共に仕事をする機会にはそれほど恵まれず、患者が経済的問題などに直面したときに生活保護などの知識の乏しさを実感していた。現在では、それについて熟知したPSWと働けることに意義を感じている。逆に、患者にしばしば合併する身体的症状に心身医学的アプローチができるというやりがいも感じる。

 ホスピタルでは、開設以来女性患者が増加しつつあり、現在では入院患者の半数を占める。ACoA(Adult Children of Alcoholics‥今は成人になった、酒害者の子供)で摂食障害や解離性障害を合併している患者をアルコール問題の視点から診ていることも、女性増加傾向の背景にある。このような中、女性医師が着任したことで、女性患者が齊藤氏を選んで外来を受診することも増えた。

 齊藤氏は、医師にとっての働きやすい条件として、一緒に働くコメディカルが充実していることを一番に挙げる。

 「医師が独りでさまざまな業務をこなすような環境は、医師の労働環境として過酷なだけでなく、患者にも良いサービスを提供できないと思います。この病院では医師とコメディカルが同じ治療方針を共有できているため、任せるべきことは任せることができます。

 この病院では再飲酒や無断離院、人間関係のトラブルなどアルコール依存症に特有な問題が日々起きているわけですが、その難しい問題にどのスタッフも慌てることなく一定の方針で対処できるのは、患者の治療のためにも、スタッフが消耗してしまわないためにも良いシステムだと思います」(齊藤氏)

 15年ほど前まで、一般精神病院では、アルコール依存症患者は閉鎖病棟に収容されることが多く、トラブルが起こりやすいので、複数のアルコール症患者を同じ病棟に入れるな、ということもささやかれていた。研修でそういう場所を訪問した医学生の中には、アルコール依存症の患者には、名札を見せるな、目を合わせるな、と指導医から言われたものもいる。しかし、赤城高原ホスピタルで展開されている医療は、まったく違っている。強制入院は少なく、ほとんどの患者が開放病棟で治療を受けている。日本の精神病院の平均在院日数が1年以上であるのに対し、ここは30〜40日間で、月間入退院者数は50〜60人に上る。

 都市部ではアルコール依存症治療の主体は外来診療のクリニックか総合病院などの専門外来である。入院ができ、家族療法に取り組み、しかも開放型アルコール依存症専門医療機関である赤城高原ホスピタルの存在意義は大きい。統合失調症患者が主体の他の精神科病院と比べて、医療従事者は忙しいが患者の目覚ましい回復がスタッフのやりがいにつながる。嗜癖関係では、セミナーやフォーラム、ラウンドアップなど大小さまざまな会合があるが、どこのミーティングにもここの卒業生(元入院患者)がいる。つまり、よくなってきた患者の姿が患者仲間や当事者、医療者の治療意欲を高めているのだ。



治療は施設の中だけで完結しない

 竹村氏は、アルコール症の治療は病院の中だけでは完結しないと考えている。これからの取り組みとして、医療機関だけではなく、もっとさまざまな社会の治療資源を捜し出し、育て連携してゆきたい。それができれば、保健師、民生委員や相談室カウンセラーなどが、本人が問題の存在を否認しており家族が困っているところから本人の受診までをつないだり、家族の教育にあたったり、ということができる。

 「ここだけで予防からリハビリまでの全てをやろうとすると、ネットワークは広がりません。患者さんを病院の中に囲い込まず、可能なことは本人やご家族、援助組織などに任せたい。私たちが集めた情報や治療のノウハウを社会に還元してゆき、病院では、ここでしかできないより高度な医療をめざしたい」(竹村氏)

 ネットワークのひとつの核は自助グループ、援助グループなど、市民パワーだ。自称「赤城系」という当院の患者さん方や卒業生の中には自力で講師を呼んで嗜癖関連のセミナーを開催するグループまででてきた。いろいろな広がりが起こって、それぞれ自立しつつある。

 この病院では、いろいろな医局から医局人事を離れて医師が勤務していて、風通しがいい。患者の受診圏に関しては、アルコール症男性は群馬県内の患者が多いが、アルコール依存症に加え、摂食障害などの合併症を抱える患者については、全国から来院している。ごく最近、病院の敷地内から温泉が出たため、入院患者が温泉を楽しむことができるようになる日も近い。

 赤城高原ホスピタルは、理想の医療を目指し、時間をかけてその環境を整えてきた。だからこそ、どんなに難しいケースがあってもいい、納得のいく医療をやりたい、と齊藤氏のような意欲のある医師が自ら飛び込んでくる。そしてそのような医師たちの手で、専門特化した医療が展開されているのである。[TOPへ]


[付表:赤城高原ホスピタルの入院患者、退院患者が関わる自助グループ]

□ AA〔Alcoholics Anonymous/アルコール依存症者による自助グループ〕
□ 断酒会
□ NA〔Narcotics Anonymous/薬物依存症者本人による自助グループ〕
□ OA〔Overeaters Anonymous/摂食障害者たちの自助グループ〕
□ NABA〔Nippon Anorexia Bulimia Association/日本アノレキシア(拒食症)・ブリミア(過食症)協会〕
□ EA〔Emotions Anonymous/感情問題を抱える人たちの自助グループ〕
□ アラノン家族グループ〔Al-Anon/アルコール問題本人の家族と友人のための自助グループ〕
□ ナラノン〔Nar-Anon/薬物問題本人の家族と友人のための自助グループ〕
□ AKK〔アディクション問題を考える会〕        など [TOPへ]


[追加更新事項]

2008年2月現在、上記雑誌の発行日からはかなりの時間(2年5ヵ月)も経過したため、その後の経過などを含め、追加更新事項を以下に記載しました。こうしてみると、それなりにかなりの変化があります。(この項目、08/02/19)


社名変更:ジャミックジャーナル発行会社の社名変更(2007年10月1日)
  (旧)株式会社日本医療情報センター(JAMIC)
  (新)株式会社リクルートドクターズキャリア新しいWebサイトはこちら


病院所在地の住所表記の変更:
  (旧)所在地/〒379-1111 群馬県勢多郡赤城村北赤城山南平1051
  (新)所在地/〒379-1111 群馬県渋川市赤城町北赤城山1051


病院スタッフの充実:
  上記記事の初めの方、「病院概要」の欄に、「4名のPSWと3名の常勤医師・・・・・」と書かれていますが、その後、スタッフが増員され、常勤医師が精神科医4名となりました。このほかに、上記記事の主役、心療内科医師の齊藤麻里子医師も週に3日勤務されています。PSWは常勤6名となりました。


病棟配分の変化:
  「病院概要」の欄に、「1階は急性期51床(閉鎖病床9床)、2階は療養型56床、・・・・・」と書かれていますが、その後、1階が急性期56床(このうち閉鎖病棟が9床)、2階が療養型51床になりました。


託児所がオープン:
  記事の中ほど、齋藤医師の経歴のところに、「系列の群馬病院に託児所があり、育児をしながらでも働きやすい」と書かれていますが、その後、赤城高原ホスピタル自体に託児所が併設され、育児中の職員にはますます便利になりました。


特別・特定医療法人認可:
  赤城高原ホスピタルの経営母体である医療法人群馬会が、特別・特定医療法人の認可を受けました。これは、社会的に公益性の高い医療法人と認められたことを意味します。詳しい説明は→こちら(07/04/02の記事)


温泉施設の稼動:
  記事の最後のほうで触れられている温泉施設が稼動中です。院内浴室に温泉が引き入れらています。また、院内の中庭では、足湯があり、こちらは見学者や通行人を含めどなたでも利用できます。病院スタッフと招待客専用の湯殿もあります。


メッセージプログラムの充実:
  付表に挙げられたリスト以外に、以下のような自助グループからのメッセージがあります。
     あんだんて/摂食障害の子供を持つ親のための自助グループ
     GA〔Gamblerss Anonymous/ギャンブル依存症者たちの自助グループ〕
     KMM〔万引窃盗癖に悩む人たちの自助グループからのメッセージ〕


第29回日本アルコール関連問題学会:
  平成19年6月22日(金)、23日(土)の両日、群馬県高崎駅ビルのホテルメトロポリタン高崎で開催されました。赤城高原ホスピタルが事務局となり、大成功に終わりました。詳しい説明は→こちら(学会)


リタリン問題:
  平成19年9月以降、リタリン乱用問題が社会的問題として大きく取り上げ、数少ない治療施設として赤城高原ホスピタルが、繰り返しマスメディアに登場しました。詳しい説明は→こちら(マス・メディア)


[別ページの関連事項]

  赤城高原ホスピタルの診療−勤務医からの報告
  赤城高原ホスピタル医師募集
  赤城高原ホスピタル職員募集
  赤城高原ホスピタル 概要


ご連絡はこちらへどうぞ ⇒ address
または、昼間の時間帯に電話(0279-56-8148)して、当院のPSW(精神科ソーシャルワーカー)と相談してください。   [TOPへ]

AKH 文責:竹村道夫(初版:08/02)


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