【 解離性同一性障害(DID)追加事項 】
(改訂: 05/12/14)
[はじめに] 解離性同一性障害のページが大きくなってきたので、分割して記事の一部を移動しました。
[ いくつかの注意点
]
人格交代は、トラウマに関係したきっかけで発現しますが、それ以外にも、催眠やリラクセーション、治療的面接中に起こりやすいことが知られています。アメリカでDIDの診断が多いのは、1つにはこの国の精神医療サービスの市民への普及と関係していると考えられます。この現象は本来患者が持っていた人格状態が治療面接によって表面化したものです。FMS(False
Memory Syndrome;
偽記憶症候群)財団が主張するように、治療者が捏造したものではありません。
私の治療経験では、DIDの症状悪化、発現のきっかけは、トラウマに関連した本やニュースを聞いて、セックス体験、出産、子供が自分の被虐待体験の年齢になった時、被虐待体験者の体験談を聞いていて、などが多く、トラウマがテーマになっている集団治療、セミナーや、精神療法がひきがねになっておこることもありました。これまでDIDという診断を受けたことがなく、当院でも、その可能性を考えていなかった患者を入院させて治療中に、人格交代が出現するようになったケースも数例、経験しています。催眠療法中の症状発現の例は経験していません。アメリカでは催眠療法がきっかけで症状が明らかになる例が多いようですが、日本では、本格的な催眠療法を主たる技法とする治療者が少ないため、DIDと催眠療法の関係はほとんどありません。
解離性同一性障害の治療経験がある医師や医療機関では、交代人格が見つかりやすく、交代人格が表面化したり、性的トラウマ体験が明らかになることが多いものです。その場合、患者は不安定になり、一見病状が悪化したように見えます。しかし、もっと長期的に見ると、結局はそれが一過性の必要な介入であると見られるようになることも多くて、このあたりは判断が難しいところです。手術のように治療の決定的な要因と見られることもあるし、単に患者を混乱させ悪化させているだけのように見えることもあり、乱暴な手術で失敗例と見えることもあります。同じ治療が評価者によって正反対に見られることもあり得ます。
アメリカにおけるDIDの急増に関しては、確かにテレビや出版物などマスコミによる多重人格という診断の流行化や、一部催眠療法家の診断乱発現象もあったようです。また幼児期虐待に関してごく一部には、荒唐無稽な風説の類もあったようです。たとえば、悪魔教による乳幼児虐待の目撃談(ピクニックで悪魔教カルトの信者が乳幼児をバーベキューにして食べるのを見たといったもの)、地球外生命体による誘拐・レイプの体験談などは、ほとんどが事実ではありませんでした。これらは
SRA(Satanic Ritual Abuse; 悪魔教による虐待)と呼ばれています。アメリカでは、1980年代後半に、多くの
SRA
被害の訴えがあり、マスコミの話題になり、いくつかのケースでは大規模調査がなされ、また多くの裁判がありました。ごく一部では有罪の判決が出たものもありましたが、しかしそれは充分な証拠に基づくものではありませんでした。1990年代には、SRA
の訴えは急速に少なくなり、マスコミの話題になることも少なくなりました。
しかしこのような社会現象を理由に、DIDの存在を疑問視することは明らかに誤った態度です。幼児期の性虐待、とくに家庭内の虐待は、これまで考えられていたよりもはるかに多く起こっており、それが大部分のDIDの原因になっていることは、間違いありません。
DIDは、目立ちたがりやの人が意識的に作り出した症状だと考える人がいますが、それは誤りです。DID患者の多くは幼児期から多少とも症状を持ちながら、9割は多重人格を持っているという自覚がありません。あるいは自分がどこか変だ、と思いながら生きてきていることが多いのです。正しい診断をされないまま長期経過しているのが通例で、DIDと診断されても、それを受け入れるのに時間がかかることも少なくありません。
トルコで994人の一般市民を調査した研究(Akyuz
G,
1999)では、少なくとも4名(0.4%)のDID患者が発見されました。トルコの一般市民にはほとんどDIDなどという疾患の知識がありませんから、報告者は、DIDが医原病(医者が作り出した病気)や、文化結合型疾患(アメリカの流行病?)や、マスコミがはやらせた現象であるという説に否定的です。
私の治療経験でも、患者は子供時代から長い治療歴、または病歴、あるいは解離症状のエピソードを持ちながら生きてきて、DIDの診断を受けて、あるいはDIDに関する情報に接して、やっと自分の問題の本質がある程度理解できるようになる、ということが多いようです。多くの例で、深刻な自殺未遂か自傷行為が見られます。本人が気づかず、家族や友人、恋人などがこのHPを見て、連絡してくることも少なくありません。
DIDの患者さん方の治療に関わり、彼女たち、彼らの悩みを見るにつけ、この疾患が正確に理解されることを祈らずにはいられません。[TOPへ]
[ 赤城高原ホスピタルと外苑神経科のDID患者]
赤城高原ホスピタルと外苑神経科でも、この9年間(1996-2004年)に約80名のDIDの患者(非典型例を含む)が入院し、または外来を受診しました。男性3例以外は、10代−30代の女性でした。ほぼ全例が自傷行為か自殺行為(多くの場合、両方)があり、一部は極めて深刻な自殺未遂を繰り返していました。またほとんどの例で、幼児期の性虐待がありました。一部は身体的虐待+精神的虐待がありました。はっきりとした被虐待体験のない(確認できない?)例も3、4例ありました。
ここで非典型例というのは、解離症状は明らかなものの、DSM-IVのDID診断基準を厳密にとると、確定診断が難しいという例です。私自身の経験では、DIDの診断は、典型例では難しくありませんが、現実の臨床では、典型例よりも、非典型例が多いようです。とくに人格交代が、出現したりしなかったり、ある時期には(ある状況下では)人格交代症状が顕著であっても、別の時期には(別の状況下では)ほとんど見られなかったり、あるいは広く断片的な解離症状と区別が難しかったり、というようなケースが多いように思います。DSM-IVでは、こういう例は、特定不能の解離性障害(Dissociative
Disorder Not Otherwise
Specified)と診断されます。
過去に統合失調症(精神分裂病)と診断を受けていた患者は多数いましたが、私自身が統合失調症との鑑別診断が困難と感じた例はこれまで、それほど多くはなく、2例のみです。また、過去の治療者に詐病(仮病)扱いされた患者も数名いました。
私自身の治療経験では、DID患者の半数以上に大量服薬自殺未遂、半数弱の患者に処方薬依存の傾向がみられました。
私の場合、重症の過食症患者、多重嗜癖の女性患者、自傷行為のある患者をみていたら、その中に結構多数の解離性障害、DIDの患者を発見することになったというのが実情です。精神科医になって20年以上もの間、見たことがなかった、あるいは見過ごしていたDID患者の登場に驚き、治療のために資料を集めました。ちょうど作り始めたこのHPに「私の理解し体験した解離症状とDID」に関する幾つかのページを作ったところ、急にDIDの患者さんやご家族のご相談や受診が増えてきました。
そして、被虐待者や解離性障害の治療経験が増えるに連れて、重症の幼児期被虐待サバイバーには、DIDの確定診断には至らないような、解離症状ないしプチ人格解離(人格解離エピソード)が今まで考えられていたほどには珍しくないことが分かってきました。解離エピソードが幼少期にあると、その間の記憶欠損について、周囲の人から嘘つき呼ばわりされ、そのためにますますひどい虐待やいじめを受けることもあります。
一方で、幼児期の虐待やトラウマ体験など、DIDの原因となるべき体験が見つからない症例も少数(3例)ながらありました。「今のところ見つからない」、というべきかもしれません。3人ともやや軽症で、一人は初診のみ、あとの2人もきちんと治療につながりませんでした。私の経験では、DID患者の大多数に、はっきりしたトラウマ体験がありました。
母親(または、父親、両親)の厳しい教育とそれに伴う身体的、精神的暴力が主たるトラウマ体験であると思われる例が5例ありました。
学校でのいじめ体験が発病を促進ないし病気を悪化させていると思われるケースが多数ありましたが、ほとんどの例で、それより前にはっきりとしたトラウマ体験がありました。いじめだけが原因、あるいはいじめが主たる原因と思われるケースには、これまでのところ3人しか会っていません。
一方、自分自身が虐待を受けたというより、自分の同胞や母が身体的暴力を受けるのを幼児期から見ていたことが主たるトラウマとなって解離性同一性障害を発症したと思われるケースが2例+αありました。虐待の定義にもよりますが、幼児期に身近な人への暴力を目撃することは、本人自身への暴力と同様に、強烈な被虐待体験になりうると言えるでしょう。
Eメールの普及で、DIDに気づかされたり、診断を受け入れざるを得なくなった、という話をよく聞きます。電話だと、「あたしじゃないわよ。どこかの女と話したんでしょう」などと言われて、狐につままれた思いでいた受信者が、「これを見てごらんなさい。確かにあなたのアドレスからのメールでしょう」と受信記録を示して言い返すことができるようになったからです。調べてみると、送信者のPCにも本人の知らない送信記録が残っているので、患者も別人格(状態)の存在を受け入れざるを得ません。 [TOPへ]
数年前、ホスピタルに入院していたDIDの患者さん(33歳)から、ナースステーションに電話がありました(2001/6月のある日の深夜)。「この1年は人格交代もなく、平穏に暮らしています。生身の体はしんどいですが、新しい友達もできて、それなりのつきあいをしています」とのこと。
[緘黙状態、意識障害発作]
DID患者では、数日間の緘黙状態は珍しくありません。私の治療経験では、緘黙状態でも、多くの場合はこちらの言っていることは理解でき、筆談が可能でした。ただ一部の方では意思疎通が不能で、食事もせず、ぼうっとした状態が数日間続くこともありました。専門的には、緊張病性昏迷やうつ病性昏迷に近い状態のように見えました。最重症の方では、食事不能で尿失禁が見られました。若干の混乱はありますが、発作の間の記憶がありました。
また、DID患者では、数分間の失神発作はよく見られますが、赤城高原ホスピタルの入院患者さんの中には、数時間から2、3日間の昏睡状態のある方もおられました。原因不明の間欠性昏睡状態として、過去に身体的精密検査を受けた方もおられました。その方は、身体的異常は見られず、精神的なものと診断されていました。赤城高原ホスピタルで体験した患者さん方では、多くの場合は、呼びかけや痛みへの反応はありませんが、わずかな手足の動きなどの自発的な体動がありました。睡眠薬や安定剤の大量服薬が疑われ、胃洗浄が行なわれた方もいました。治療スタッフの心配をよそに、時間がきたら、何の障害も残さず回復しました。発作の間の記憶はありませんでした。
[ ごめんなさい ――― この項目、2000/9追加]
このページをご覧になった日本全国のDIDの患者さんご本人、あるいはそのご家族の方から、たくさんのお問い合わせや診療依頼のご連絡がありますが、私(院長)が多忙のため、今のところ、DIDの方の外来継続診療をこれ以上お引き受けできそうにありません。また、入院ご希望のお問い合わせもありますが、赤城高原ホスピタルはアルコール症の専門病院ですから、アルコール問題に関連のない方(たとえば、アルコール乱用を合併している、酒害家庭の出身であるというような事情のない方)の入院はできません。
DIDを診てくださるセラピストやカウンセラーを紹介して欲しいという依頼も多いのですが、対応できず、困っている状況です。それぞれの地域の精神保健福祉センターなどにお問い合わせください。皆様方のお役に立てず、申し訳ありません。
DIDの先進国、アメリカでは、もはやDIDは稀な疾患ではなく、どこにでもいる普通の精神障害になってきました。いろいろな立場の治療者がいろいろな治療を試みています。治療は多くの場合、長期にわたり、患者にとって苦痛を伴いますが、辛抱強く、誠実に患者に対応できる多くの治療者のもとで人格統合治療に成功しているようです。人格統合に至らなくても、DID患者の破壊的な衝動を抑え、苦痛を和らげることができれば、治療には意味があります。
私自身は嗜癖問題の専門医で、DIDの専門医ではありません。私自身がDIDの治療を始めた頃は、周りに指導してくれる人、助言者もなく手探りの治療でした。DID患者を診るのは今でも発見と驚異の連続です。DIDは人間の精神に興味を持つほとんどの精神科医、心理療法家、セラピストにとって、苦労のしがいのある疾患です。是非、敬遠せずに対応してほしいと思います。正直なところ、私の診療できる人数には限界があります。十年前と違い、現在は、多くの参考書や情報が入手可能です。治療者と患者は協力をして、DIDの治療に挑戦してほしいと思います。 [TOPへ]
[DIDのメディア報道]
DIDに関するメディア報道には誤りが多いようです。過去に以下のような誤りを見聞きした事があります。
(1)解離性同一性障害(多重人格性障害)を解離性人格障害とした誤り;(「解離性人格障害」という用語はありません)
(2)解離性同一性障害(多重人格性障害)が人格障害のひとつであるとした誤り;(解離性同一性障害は解離性障害に属し、人格障害のひとつではありません)
(3)解離性同一性障害を性同一性障害と混同したした誤り;(両者は全く別の疾患です)
(4)解離性同一性障害が進行して統合失調症(精神分裂病)になるとした誤り;(両者は別の疾患です。DID患者が統合失調症と誤診されていることは少なくありませんが、DIDの病状が進行して統合失調症になることはありません) [TOPへ]
[猫人格について、随想と分析 ――― この項目、01/04/19追加]
DIDのそれぞれの人格状態は、多くの場合、名前か呼び名、あるいはニックネームを持っていますが、名前がついていないこともあります。現実には多分あり得ないような不思議な名前を持っていることも少なくありません。さらに半獣半人のような同一性(人格状態)があったり、もはや人格とは呼べないような断片的同一性があったりします。たとえば、ある患者は「邪悪な心」と称する、悪意に満ちた人格状態にスイッチすることがありました。
私の治療体験では、半人半獣の「猫人格」(ないし、猫好き幼児人格)を有する患者が4、5人もいました。名前は「子猫」、「にゃん子」、「ニャ-」、「猫美」などです。私の経験では、これらはすべて、主人格の幼児期イメージであるか、主人格をサポートする役割を持っていました。猫のしぐさをしたり、ねこっぽい仕草をしたりしますが、ほとんどの場合、人間の言葉が理解できますし、喋れます。そのうちの2人は、時々私にEメールをくれます。ひとりだけ、「ニャー」としか言えない「猫人格」にも会いました。理論的には、悪意の化け猫人格というものもあり得るとは思いますが、私はまだ会ったことがありません。また、「猫人格」があるなら、「犬人格」があってもよさそうにも思いますが、これも会った事がありません(後述しますが、その後数例に会いました)。なぜ子猫なのでしょう。以下、私の想像です。
既述のように、DID患者のほとんどが、幼児期の虐待を受けています。虐待を受けた幼児にとって、猫はどういう意味を持っていたのでしょう。多くの場合、子供になついてすりよってきた、子供の接触欲を満たす、安全で温かい存在だったのではないでしょうか。あるいは、子供のようには虐待を受けずに、危険な場所から姿を消し、都合の良いときだけやってくる、子供からみるとうらやましい存在だったのかもしれません。さらに、雨に濡れてブルブル震えている捨て猫を、幼児が自分と同じようにか弱い存在として、同一視してかわいがったとしても不思議ではありません。
一方で私は、動物虐待をしていた被虐待者を数多く知っています。その虐待対象の中にも子猫がしばしば登場しました。子供が虐待者に同一化した時に、子猫は被害者になり易い存在だったと言えるかもしれません。ある患者は、猫を虐待して殺した自責感から、自傷行為を繰り返していました。
どうして、「猫人格」にくらべ、「犬人格」が少ないのでしょうか。犬の方が、家の中の権力構造に忠実で、弱い被害者になつくより、乱暴者でも権力者になつくような気がしますが、どうでしょうか。DID患者には女性が多く、特に私の治療体験は、女性患者に偏っています。女性DID患者では、男性イメージの犬より、女性イメージの猫の方が同一化しやすいのかもしれません。
以上、この項目は、私の個人的治療体験に基づく分析です。本当にDID患者に「犬人格」より「猫人格」が多いのかどうか、真偽は不明です。学術的価値はありません。そのような論文や報告、分析も見たことがありません。前々から、ちょっと気になっていたので、報告した次第です。今後、「邪悪な猫人格」や「化け猫人格」、「犬人格」の患者さんを何例かみたら、この場所に報告するつもりです。
[猫人格について、追加事項、犬人格の報告 ―――
この項目、02/09/11追加]
犬人格を持っているDIDの方を知っているというHPビジターからEメールをいただきました。その方によると、そのDIDの方には、「ぷりんちゃん」という二次的人格があるそうです。正式名称は「ポムポムプリン(04/12/21確認)」、アニメのキャラクターのようです。治療能力を持っていて、誰かが傷ついた時、即座に治してしまうとのことです。
「ぷりんちゃん」の「癒し系」性格や「子供の遊び相手」という役柄は、私の知っている猫人格たちとほとんど同じのようですし、違和感がありません。「犬人格」とはいっても、アニメキャラクターですし、かなり「猫っぽい犬人格」と言ってよいのではないかと思います。アニメのイメージも、犬と猫の中間のような気がします。
私自身の臨床体験では、上記の記事以降にも、数人の「猫人格」に会っています。現在のところ、私の治療体験における犬対猫の比率は、0対8と圧倒的に猫に偏っています。[TOPへ]
[ついに犬人格登場 ――― この項目、02/12/10追加]
ついに私自身が犬人格に遭遇しました。患者さんは20台のDID女性です。以前から数人の二次的人格が確認されていましたが、数週間前から、診察室などで、「ワンワン、クークー」と吠える犬になりだしました。1−2分くらいで他の人格にスイッチします。なき声や動作から見てかわいい仔犬か若い犬のようですが、夕方など遠吠えをしていることもあるので、年齢不詳です。
なぜ猫でなくて犬なのか、「犬人格」には理由が必要だという訳ではありませんが、この方の場合は背景があるようです。猫に関連した過去のトラウマ体験と犬に関連した身近な治療的体験があったのです。私の臨床体験の犬対猫は、1対8になりました。まだまだ圧倒的に猫に偏っています。[TOPへ]
[ビジターからのメール:彼女がDIDです]
質問:私のガールフレンドが現在解離性同一性障害だと思われます。現在、副人格のひとりが拒否しているので、受診はしていません。合意が得られたら治療させたいと思っています。どういうことに気をつければいいでしょうか?
回答:同様のご質問を多数いただきますが、メールが多すぎるのと私が忙しすぎるので、ほとんどご返事をさしあげられないのが実情です。
副人格(二次的人格)のひとりが拒否しているので・・・というのは、DID患者によくある出来事のようです。
自傷行為や自殺行為がひどい場合を除いて、受診を拒否する方を無理やり治療することはできません。
治療したいと言いだしたときにどうするか、それが問題ですが、実のところ、どうしたらよいか、私にも分かりません。
DID患者をきちんと治療してくれる精神科医は、残念ながら多くはないようです。
地域の精神保健福祉センターに相談してみるとよいかもしれません。あまり期待できないかもしれませんが、何も指標がないよりかはいいでしょう。
処方薬乱用、依存にならないように注意すべきです。
私のところは、もう手一杯です。遠方から来られて、治療を懇願されることが多くて、途方にくれています。ほとんどの方が一度だけの診察になっていますが、それでもよい、と言う方だけ受診を受けつけています。
このHPをごらんになっている同業者の方、カウンセラーの方、患者さんやご家族の方、自薦、他薦、遠方でもけっこうですから、いい治療者がいたら教えてください。
DIDの掲示板が幾つかあるようです。他の方々がどうしているかを知って、知恵を出し合ってはいかがでしょうか。[TOPへ]
[ビジターからのメール:友人がDIDです]
質問:私の親友のひとりが解離性同一性障害の症状があるようですが、自傷行為や自殺行為はありません。私にできることはありませんか?
現在、受診はしていませんが。受診を勧めた方がいいでしょうか?
回答:同様のご質問を多数いただきますが、メールが多すぎるのと私が忙しすぎるので、ほとんどご返事をさしあげられないのが実情です。
私が診察したDID患者のほとんどでは、自殺行為か自傷行為を伴っていましたが、サブクリニカルな(受診をしていない)症例では自己破壊的行為のない例も結構多いかもしれません。自傷自殺行為について家族や友人には話してないということもあり得ます。逆に極親しい知人だけがこのことに気づいていることもあります。確定診断に至らないような例(非定型例)では、自傷・自殺行為が明らかでない例もかなりあります。
上記のような日本におけるDIDの治療状況を考えると、受診をした方が良い、と自信を持って言えません。自傷行為や自殺行為があれば精神科への受診を勧めるべきでしょう。処方薬依存にならないように注意してください。
親友にできることは何か、というご質問ですが、暖かく見守ってあげるべきでしょう。多くの人格の複雑な人間関係(人格関係?)にあまり深入りしない方がいいかもしれません。
不用意に援助関係に深入りすると、患者の自立を助けるより、患者を依存させる関係になってしまう可能性があります。
また、DID患者は時に、感謝の気持ちを性的サービスで返そうとしたりするので、異性の援助者の場合、善意で対応しているつもりでも、性的関係に陥ることを避けつつ親友として誠実な対応を続けることはかなり難しいと覚悟すべきです。患者からの性的サービスを期待したり、受けたりすると、大抵は、過去のトラウマ体験の繰り返しになり、悲惨な結果になります。
[ビジターからのメール:生徒がDIDです]
質問:初めまして。私は高等学校で教員をしていますが、実は、クラスに多重人格と診断された生徒がいます。
その生徒に対し、どのように接してゆくべきか?学校としてどんな体制をとればいいのでしょうか、御教授いだければ幸いです。
回答:難問です。具体的にどうしたらよいか、ということは私にも分かりません。
DID患者の大部分は、自傷行為や自殺行為があります。
さらに、この病気になる人は、催眠感受性が強く、日常生活でも、過敏で、周囲の影響を受けやすいために、時に、仮病扱いされたり、嘘つき呼ばわりされたりしがちです。実際にいじめの被害者になることも多いようです。
また、不信感が強く、容易にこころを開かず、時には、嗜癖行動を伴っていたり、倒錯的傾向が見られたりします。
だから、一般の方からは、扱いにくい、変わった人と見られがちです。
しかし、そのような問題の奥底には、それ相当の原因があるということ、つまり、彼ら、彼女たちは、人生の早期に、生きる望みを失うほどの心的外傷を受けた人で、たまたま殺されもせず、自殺もしなかった人である、ということを知ってほしいと思います。
多分、一人の力では、手に負えません。周囲の多くの援助者と手を組み、暖かい目で辛抱強く対応していくことが必要です。
個々の事例については、専門家の助言を得ることが必要かもしれません。
以下のことは、私たちが、多くのDID患者の病歴聴取や治療から気づいたことです。
正常者なら、明らかな嘘と思われるような言動が、DID患者では、「解離」症状や人格のスイッチング(人格交代)であるという可能性があります。だから、明らかな嘘をついたということで処罰したり、嘘つき呼ばわりをすると、二次的なトラウマ体験を重ねることになります。私は、実際にそういう例を多数見ています。
DID患者は、圧倒的に女性が多いのですが、女子生徒の場合、健康な生徒以上に、性的な被害を受けやすいので、気をつけてあげるべきです。時には、男性の援助者が性的なトラブルに巻き込まれる(巻き込む?)ようなことが起こりがちです。性的にルーズな交代人格、性的に無防備な交代人格、誘惑的な交代人格などがある一方で、多くの場合、基本人格は自己評価が低く性的に傷つきやすいということを知っておくべきです。異性の援助者は身体的接触を避けるべきです。非専門家は個室での二人だけの面接も避けるほうが安全かもしれません。
周囲の援助者が、DIDや解離症状の基本的な知識を持っていれば、未然に防げるトラブルもあります。たとえば、このHPの関係するページをプリントアウトして、読んでおくことが役に立つかもしれません。
たいていの子どもの精神障害では、両親の協力を要請し、両親と共同しながら、治療に当たるべきです。しかし、DID患者では、被虐待者である可能性、そして虐待者が両親あるいはそのいずれか(父か母か)である可能性を考える必要があります。両親が協力できる相手であるか、どの程度に協力できるか、ということを、早めに見分ける必要があります。時には、虐待者である両親から患者を保護する立場を取らなければいけない場合もあります。その場合、共同戦線を張るべき仲間は、児童相談所、保健所、精神保健福祉センター、専門家、市民グループ(子どもの虐待防止センター)などです。
当然、学校現場でも、治療施設でも、ほかの生徒の教育やほかの患者の治療とバランスをとる必要があります。DID患者を厄介者と見るのでなく、対応する援助者の柔軟性と協調能力が試されるチャレンジであると認識すべきです。DID患者の回復をみることは、援助者を勇気付けます。
[ビジターからのメール:基本人格と主人格の区別がわかりません]
質問:初めまして。学校で解離性同一性障害について調べていますが、HPに記載されてある基本人格と主人格の区別が文章を読んでも分かりませんでした。もう少し簡単な文で教えていただけないでしょうか?
回答:以下にケースを紹介して説明します(文中、仮名です)。
ある日、私のクリニックに、「川上恵理子」と称する20歳の人物が受診し、診療が始まりました。もちろん保険証も戸籍上の名前も川上恵理子です。解離性記憶障害を含む多彩な解離症状、摂食障害があります。情緒不安定で、自傷行為、自殺未遂などがあり、混乱していますが、大きな声の元気のよい女性です。通院治療し始めて、3ヵ月くらい後、幼児期のトラウマについて話し始めました。その診察中に、突然人格交代して、小さな声のおどおどした女性が登場しました。
「あなたは誰?」という医師の質問に、女性は「私は川上恵理子です。どうして私がここにいるの」と困惑した表情です。混乱した会話が3分ほど続いた後に、また人格変化して、元の大きな声の元気な女性が登場しました。
「日常生活では、混乱を避けるために私が川上恵理子と名乗っていますが、実は、私の名前は山下エミです。24歳です。先ほどの女性が本当の恵理子です。1年前、恵理子が自殺しようとしたので、私が恵理子を眠らせてしまったのです。それから今日まで恵理子はずっと眠っていて、私が恵理子の代役をしていました。恵理子には生活能力がないし、自殺傾向があって危険だからです。先生が眠っていた恵理子を起こしたのです」
と言います。それからも治療は続き、エミのほかにも5人の交代人格が確認され、解離性同一性障害と診断されました。保険証とカルテ上の名前は川上恵理子ですが、治療場面に登場するのは、主として山下エミです。医師には、川上恵理子ではなく山下エミです、と言うようになりましたが、実生活では、恵理子は眠ったままで、代役のエミが恵理子と名乗って行動しています。恵理子はたまに治療面接中に短時間登場するだけです。3年ほど後、徐々にエミの登場する時間が少なくなり、恵理子が治療の中心になってきました。
さて、このケースで、基本人格は、川上恵理子(戸籍上の氏名を名乗る人物)です。でも主人格は、恵理子と名乗ってはいても実は山下エミ(川上恵理子の代役をしていている)です。実生活での主たる登場人物がエミだからです。治療し始めて3年後にようやく主人格が山下エミから川上恵理子になりました。
[ビジターからのメール:交代人格の名前はどのように決まるのですか]
質問:解離性同一患者さんの交代人格の名前はどのように決まるのですか。登場してきた時に人格自身が名乗るのですか?誰が名づけるのですか
回答:いろいろです。登場してきた時に、人格交代に気づいた人が、「あなたは誰?」と聞いて、その人格が答える時もあるし、主人格やリーダー的な役割をしている交代人格が、自分や多くの人格の名前と特徴、役割などを説明してくれることもあるし、治療中などに名前のない人格が一回だけ登場して、そのまま行方不明になることもあるし、何度か出現するので、治療者が仮の名前を付ける事もあります。名付け親は多くの場合不明です。
[ビジターからのメール:彼女がDIDですが、現在の主治医(治療スタッフ)が無理解です]
質問:ガールフレンドが解離性同一性障害のために治療中ですが、現在の主治医がこの病気に無理解で、治療スタッフの言葉に傷つくことが多いので、他の治療施設を探そうと思っています。近くの治療施設を紹介してください。
回答:同様のご質問を多数いただきますが、ほとんどご返事をさしあげられないのが実情です。
解離性同一性障害の患者さんとの関係は、個人的なお付き合いでも、医療的なお付き合いでも、大変なストレスです。経過中に、関係者やご家族、治療スタッフ間の軋轢をきたすのは必至です。多くの友人や関係者、医療スタッフは、その中で傷つき、患者さんとの関係を絶ったり、協力関係を保てなくなったりします。とりわけ入院させた場合の看護師の負担は相当なものです。
そのことを知っている医療機関は、最初から、このような患者さんの治療を断ります。知らずに引き受けるか、知っていて引き受けるか、いずれにしても、解離性同一性障害の患者さんの治療を引き受けてくれる医療機関は稀です。
ですから、医療スタッフの対応が、時には、気に入らなくても、寛容にならないとやっていけません。スタッフの必ずしも適切でない対応のひとつひとつに腹を立てていたら、治療が継続せず、医療施設を放浪することになります。実のところ、私の病院でも、この疾患の患者さんの処遇をめぐって、ナースが患者さんご本人やご家族から責められたり、主治医や院長がナースと患者さんご本人やご家族の双方から苦情を言われたり、ということがしばしばあります。
患者さん自身が、他人を信じられず、信じていても、しばしば、動揺したり、急変したり、激昂したりするのは、幼児期からのトラウマ体験の後遺症と考えられるので仕方がないとしても、周りの人が患者さんの言動に振り回されないようにしないと、安全な治療の場は保てません。
この病気の治療には長い時間がかかります。信頼関係は治療の基礎の基礎です。その確立のためには、関係者全ての寛容さと協調性が必須です。保護者や関係者は、患者さんと治療スタッフの双方の言動に対して寛容になり、関係悪化を避け、関係修復のために気長に努力をすることが必要です。
どうにも他の医療施設を知りたければ、地域の精神保健福祉センターに相談してみるとよいかもしれません。
私のところは、もう手一杯です。遠方から来られて、治療を懇願されることが多くて、途方にくれています。セカンド・オピニオンを聞きたい、と言う方だけ受診を引き受けています。[TOPへ]
[上記、ご質問に対する第2回答者のご意見]
サイトマネージャー、竹村道夫のメル友に Hull さんという方がおられます。
解離性同一性障害に関心を持ち、治療もしておられる臨床心理士です。
ご自分で「解離性同一性障害の説明」というサイトを作っておられます。
それがとてもよくできているので、上記ご質問のいくつかに対して、
「Hull さんなら、どう答えますか?」と竹村がメールで質問したところ、丁重なご回答をいただきました。
別ページに転載させていただきました。関心のある方は、ご覧ください。→ Hull さんのご意見
● ご連絡はこちらへどうぞ ⇒
●
または、昼間の時間帯に、当院PSW(精神科ソーシャルワーカー)にお電話してください
⇒ TEL:0279-56-8148
文責:竹村道夫(初版:02/07/16)